万城目学『鹿男あをによし』

 神経衰弱気味ではないかと指摘され、気分転換を兼ねて大学院の研究室から二学期限定という約束で奈良の女子校にトばされた主人公。
 初日から生徒達に手を焼き、項垂れる彼の前に現れた人語を操る鹿から「運び番」に選ばれたと告げられるのであった。
 そして鹿から近いうちに起こる災厄を避けるため「サンカク」と呼ばれる神宝を手に入れるよう指示される主人公。
 最初は断ったものの「印」を付けられて鹿の顔になってしまい、それを直すためにやむなく承認することに。
 赴任した高校と京都・大阪姉妹校のスポーツ交流大会「大和杯」の剣道部の優勝プレートが「サンカク」と呼ばれている事を知り、自分が顧問である剣道部を率いて優勝を狙うことに。しかし、相手は59連覇を成し遂げる強豪京都と、その60連覇阻止に燃える大阪。弱小剣道部を率いての戦いが始まる――

 『鴨川ホルモー』(→感想)で第4回ボイルドエッグスズ新人賞を獲得した著者の第2作目。
 不満と鬱屈の中で慣れない高校教師をすることになった主人公。微妙に失敗気味にスタートした教師生活が大和杯に向けて生徒達との交流とともに充実したモノに――というファンタジックな要素を含んだ青春教師スポーツモノで終わるかと思いきや、物語は意外な方向に。ネタバレになるので触れませんが、是非読んで確かめていただきたい。

 キャラクター達も魅力的。リチャード・ギア似の教頭、マイペースな歴史教師藤原君、人間以上に人間くさい鹿(ポッキー好き)、そして、謎の行動が多い女生徒堀田イト。ある者は物語を牽引する鍵となり、あるものは物語の調子を整える名脇役となり、奈良の歴史とどこかゆったりとした空気とともに物語を彩ります。
 特に鹿と主人公のやりとりに漂うユーモアとは素晴らしいものが。

 ただ、キーとなるあるものの名称から、ネタが連想できてしまうのはちょっとマイナスかなあ、とは思います。それを補って十二分な面白さではあるのですが。
 笑いも、手に汗握る緊張感も、そしてちょっと爽やかなラブ要素もあるエンターテイメントな要素が詰まった本作。読み終えた後非常に晴れやかな気分になりました。

 『鴨川ホルモー』に続いてその力量をまたもやはっきりと示した著者の次の作品が楽しみで仕方ありません。

鹿男あをによし鹿男あをによし
万城目 学

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