福島鉄平『サムライうさぎ』3巻

サムライうさぎ 3 (ジャンプコミックス)

サムライうさぎ 3 (ジャンプコミックス)

 うさぎ道場とヤマネコ道場、五対五の勝ち抜き戦が始まる、という2巻のラスト。
 ここからジャンプお得意のバトル物になってしまったらどうしよう、とちょっとハラハラしてしまいましたが杞憂に終わりました。そんな第3巻。

 道場同士の対抗戦となりますが、そこで描かれるのは必殺剣でもなければ人間離れした強大な敵でもなく、兄弟の絆、そして夫婦の絆の物語。

 頭領として注目と期待をされてきた兄・本間魯山と、同等の力を持ちながら家中の者に顧みられることが無かった弟・良成。その弟に試合を通じて注目される機会と、自身がそれに値する力を持った人間だと気づくきっかけと自信を与えた兄。

 そして、愛する女のために道場を建てたヤマネコ道場師範・定ノ丞と、勝った方が互いの妻に対する愛が深いとする一騎打ちを受けた伍助。
 外部に見せつける事で二人の関係を確認していた定ノ丞に対して、他人に伝わる形で愛を表せないということから自分の愛情に引け目を感じた彼ですが、妻である志乃の笑顔を見て「妻が良き夫と思ってくれる……それだけで良いのだ!!」と悟ります。


 未だぎこちなく手探りで互いの距離を探しながらも、一人前の「夫婦」になろうと努力を続ける伍助と志乃の若夫婦。
 不器用なまでに真っ直ぐな伍助が開いた道場と、そこに集った人々の絆の物語。
 少年漫画らしいデフォルメを施された賑やかなキャラ達がギャグを交えて動く中で、描かれているのは家の問題、志のあり方を含めた武士の生き方、という時代小説においても普遍的なテーマ。可愛らしい外見に似ない骨太な作品。清涼感のあるキャラ描写も気持ち良いです。
 路線変更することなく続いて欲しいと切に願います。