きづきあきら『ヨイコノミライ』
真・業魔殿書庫さんの企画 「オタク漫画紹介録」の今回のテーマが『ヨイコノミライ』ということで参加してみます。
移転・改名前、完全版の4巻が出た際に感想を書きましたが、せっかくなので新規書き直しで。
これを書く前に読み直しましたが、やはりきづきあきら+サトウナンキのコンビは人間関係のはらわたを容赦なく描くことであるなあ、と。
- 作者: きづきあきら
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2006/07/28
- メディア: コミック
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ヌルいおたくの集まった漫研に入り込んだ巨乳の美少女 青木杏。彼女は「部誌を作りたい」という部長の提案に乗る形で部員達の間を泳ぎ回り波風を立て始める。その波紋は広がっていき、それなりに楽しくやってきた漫研メンバーの人間関係を壊していく。
何もなさないでいた部員達が「部誌」という形で創作に関わることで何が変わってしまうのか――。
未熟だけれども、それ故に居心地の良いヌルいおたくコミュニティが、恋愛などの人間関係や、創作に対する姿勢・才能といったものを巡って崩れていく様を描くことで読者ののど元にナイフを突きつける本作。
多少なりともおたく的要素を持った人間であるならば、この作品を読んで身につまされることがあるはず。
何も出来ないことをおたくであることにすり替える者、批評家気取りの勘違い感想文書き、自己の存在価値を他人に見出してそれを押しつける者、何もしないことを可能性の言い訳にする者、痛々しいキャラ作りをするぶりっこ女、才能の無い他者を軽んじる同人作家、自分に無い他人の才能に嫉妬する者、等々。
挙げているだけでも自分の身につまされることが多くてイヤになりますが、そういったおたくの負の精神面を持ったキャラクター達が多数登場。杏の策動によってその負の面が顕在化されていきます。
そういった面は強くデフォルメされて描かれていますが、デフォルメがなかったらもっと痛々しく読む者の胸に突き刺さることでしょう。
程度の差はあれ、肥大した自意識はおたくに共通のもの。それはおたくである我々が一番良くわかっていることでしょう。「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」こそがおたくの宿痾であります。
上記の痛々しいキャラの属性も、多くはこの過剰な自意識に支配されております。表面上は上手くやっていたキャラクター達が部誌作りという創作活動に携わる中で、杏によって自分たちも気づいていなかったこの「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」を次々に暴かれていきます。
ある者はそれに気づかされることで自らを見つめ直し、新たな一歩を踏み出しますが、それが出来ずに竦んでしまって前に進む事を止めてしまう者も。
安易な救いを与えていないラストですが、読者は一個の「おたく」としてこれをどう受け止めるか。残酷さと優しさを併せ持ったラストと私は受け止めました。
「おたくって楽しいよね!」で語られることが多い中目をそらされがちな、黒々と蟠るおたく心理の暗部をえぐり出した一作と言えましょう。
【面:5 オタ:4 パロ:1 共:4 痛:5 萌:3 燃:2】
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