原作:京極夏彦 作画:志水アキ『魍魎の匣』1巻

魍魎の匣 1 (怪COMIC)

魍魎の匣 1 (怪COMIC)

 「コミック怪」連載。掲載誌自体がまだ2号しか出ていないのですが、一回当たり100ページ超のボリュームで連載されているため、早くも単行本化。

 この1巻に収められているのは、事故によって入院した柚木加菜子が箱――「美馬坂近代医学研究所」から消えてしまうまで。

 ストーリー展開は原作を忠実を追っており、キャラクターも原作の描写を丹念になぞって描いていて、原作ファンが読んでもイメージを損なうことはないのではないでしょうか。
 柚木加菜子と楠本頼子の美しくも危なげな関係、自らを「箱」だと断じる強靱さと隙間を持った木場、関口の不安な様、いい加減な鳥口、可愛らしい敦っちゃん、爬虫類のような久保竣公の冷たく嫌らしい感じ、等々原作のイメージを忠実に漫画化しております。ラスト1ページでようやく登場した京極堂も険のある表情、静かな佇まいと雰囲気はバッチリ。
 致命的ではないものの、欠落を抱えながら危ういバランスの上で「普通」を生きている京極夏彦作品のキャラを活写しております。
 特にこの1巻では普段は大人しいのに、ふと激しいものがよぎる際に見せる、どこか危うさを孕んだ頼子の心情と外面の描写がいい。

 志水アキの筆が持っている雰囲気と、原作の雰囲気が良く合っているというのもありますし、その圧倒的画力が全部原作の方を向いてくれているのですから心配無用、といったところ。

 単行本として出版されている京極夏彦作品は一応全て読んでいる一ファンとして個人的な感想を述べさせてもらうならば、不満らしい不満は無い、というか寧ろ大満足。よくぞここまで丁寧に書いてくれた! という感じで、オフィシャルコミカライズとしての立場に恥じない作品だと思います。

「映画の関連商品として出してるんでしょ〜」などと云わず、原作ファンなら漫画として新たな命を吹き込まれた京極ワールドを体感するために、原作未読の人ならば原作や映画の入り口に是非読んでもらいたい一作です。
 話の面白さは折り紙付きの原作に、実力派の作家が挑む本気のコミカライズとでも云うべきでしょうか。これからの話をどう漫画化してくれるか非常に楽しみです。おすすめ。