『ヒャッコ』が拓く漫画業界の新しい道

 まだ新刊の発売がされていないので、去年のネタで考えていたことをつらつらと。

 もうしつこいくらいに『カトウハルアキ作品は良い!』ということを言ってきましたが、今回は作品内容についてではなく、作品の位置づけについてのお話を一つ。

 ご存じの通り『ヒャッコ』は無料で読めるWeb漫画としてYahooコミックで連載中ですが、このWeb漫画という形式は今までなかなかヒット作に恵まれてこなかった印象があります。
 ぺんぎん書房時代の「コミックSEED」もきづきあきらヨイコノミライ』の掲載があったり、オノナツメをデビューさせたり、コアな層の話題にはなっていても一般書店でコミックが平積みにされている、という状況はあまり見かけませんでした。あくまで限られた層に深く静かに受けていて、刷り部数的にはそう大きなものではなく、短期間に何度も重版をするようなヒット作、というものはありませんでした。

 現在でも、Yahooコミックスに掲載中の各誌、双葉社に移った「コミックSEED」、講談社マガジンZ Web別冊「ZOO」、有料ですが幻冬舎コミックス「幻蔵」「MAGNA」、などWebコミックとして名前を挙がるものはいくつかありますが、その中で売れている作品ってあるかしら? と問われるとなかなか答えが難しい状況です。いい作品、面白い作品は多いんだけど……と言葉を濁しがち。もっとはっきり言ってしまえば「売れない」であります。
 ここを読んでいる皆さんも自分の本棚にこれらWebコミック連載作品の単行本がいくつ並んでいるか数えてみて下さい。多くの作品を読んでいる人でも結構少ないのではないでしょうか。

 やはり、残念ながらWebコミックという媒体がまだまだマイナーと言わざるを得ない状況と思われます。

 そんな状況ですので出版社側もWebコミックについては試行錯誤の最中、利益が上げられなければ当然そこにかけられるお金も限られてきます。広告も打てないので知名度は低いまま、という。
 また、そこに描く作家としても、漫画は雑誌連載こそが本道、Web連載はちょっと格の落ちるものという意識があるようです。(とあるコミック誌の編集さんと話をさせていただいた際に、実際そういう話を聞きました)。
 出版業界は紙媒体中心ですからここら辺は頷けるところです。単行本になっても売れない前例ばかりでは書くことを躊躇ってしまうのも頷けます。無料Webコミックの場合は、読者が自分の作品にお金を払ってくれないということがひっかかる作家さんもいるでしょう。

 さまざまな問題をWebコミックが抱える中、『ヒャッコ』が純粋なWeb発のコミック、それも無名の新人作家の初単行本としてそれなりのヒットを出したのは、Webコミックという媒体にとって大きな光明と言えましょう。
 1巻が出てから約半年で何度も版を重ねているというのは、販売面で見てもかなり立派な成績。コミック専門店が発表する売上ランキングにも顔を見せたりと純粋なWeb発のコミックとしては初の「ヒット」と言ってよいのではないでしょうか。
 もちろんメジャー少年誌掲載作品のような知名度はありませんが、漫画好きの層に「とにかく楽しい!」とじわじわと評価と知名度が高まっている点は間違いないでしょう。

 このヒットにより「Webコミックは売れない」という印象に対して、販売数の上で実績が出せましたし、Web発の作品の力でヒットに至ったという成功例も示せました。このことで出版社側に成功例続く動きが出たり、作家さん達の間にも「Webコミック」という媒体を再認識させて「この媒体もアリだな」と思わせることがあったなら、それは大きな功績と言えるのではないでしょうか。頁数・コストなどの問題から、雑誌に新連載を載せるよりは敷居が低いと思われるので、個人的には新人作家の作品を載ることを希望。

 実際にWebコミック連載の作品には知名度が低いものの良作は多いと思っておりますので、これを機に読者の目ももっとWebコミックに向けられると嬉しいなあ、と思っております。

 具体的な数字が出せていないので感覚的な話となってしまっておりますが、ご容赦を。何か具体的な数字・その他ご指摘があったらぜひご教授下さい。


【参考】
Webコミックの状況についてはフラン☆skin はてな支店さんが以前に述べられております。