水上悟志『戦国妖狐』1巻

戦国妖狐(1) (BLADE COMICS)

戦国妖狐(1) (BLADE COMICS)

 少女の姿をした妖狐・たまと、仙術使いの迅火の義姉弟。十六世紀半ばの乱世の日本を舞台に、世直しの旅をする二人を描きます。
 舞台は戦国時代ではありますが、人外の力を揮うを主人公の二人を始めとして、闇(かたわら)という化け物が登場するなどファンタジー要素が強いお話。

 人間好きで乱世に泣く者を救おうとする妖狐のたまと、人間でありながら人間嫌いで闇に心を寄せる迅火、相反する要素を持ちながらも義姉弟として旅を続ける二人。「人間嫌い」でありながら、その嫌いな人間の世直しのためになぜ迅火が協力しているか――これが物語の一つの鍵となります。

 この二人の旅に成り行きで同行することになるへっぽこ武芸者の真介と、退魔組織である断怪衆によって闇への改造手術を施された少女・灼岩が加わり、その断怪衆との戦いが幕を開けます。

 闇側の存在でありながら人のために働こうとするたま、人でありながら人間を憎み闇を志向しその力を行使する迅火、非力な人間として生まれ力を求める真介、望まぬ闇の力を与えられてしまった灼岩、人々を守るために闇を研究しその力を使う断怪衆。
 1巻はたまが迅火に対して力を持たぬ真介らを守れ、と指示を下すところで終わりますが、物語としては人間と闇、力を持つ者と持たない者という2つの二項対立を抱えて展開し、単純な退魔モノでは終わらない捻れを抱えた構造となっております。

 とはいえ、シリアス一辺倒ではなく、水上節とでも言うべきコミカルな展開かと思えばシリアスだったり、シリアスだと思ったらコミカルな展開だったりという不思議なリズムは健在。お城がパンチ! とか。

 そういえば、プレ「戦国妖狐」とでも言うべき二人の出会いを描いた読み切り「妖狐小歌」は1巻に収録されていないのですね。連載が始まったからきっとこれも単行本収録されるだろうと思って掲載号の「ブレイド」を捨ててしまいました……。