白井弓子『天顕祭』

天顕祭 (New COMICS)

天顕祭 (New COMICS)

 07年文化庁メディア芸術祭奨励賞受賞作、ということで元は同人誌として発表されていた作品の単行本化。

 戦争による汚染で人の住めない土地が多く出来てしまった国。「フカシ」と呼ばれる毒素を吸収浄化する竹を用い、少しずつ人の住める場所を広げていく人々。
 そんな世界を舞台に描かれる鳶の青年と彼の元に現れた少女の恋物語

 フカシの汚染度によってレベルが定められ短時間しか労働できないような土地、健康を引き替えそこで働かされる底辺労働者達、そんな世界に生まれた天顕菩薩信仰、未だ息づくヤマタノオロチ伝説――などなど、SF的要素と土俗が入り交じる特異な世界を、俯瞰ではなく、そこに生きる人々の言動からの描写。現代の日本に似た習俗を持ちながら異なる世界であることを自然に感じさせる丁寧な描写が作品に説得力を与えます。

 そして、ヤマタノオロチ伝説をモチーフに語られる主人公とヒロインの恋と戦い。ヒロインや50年に一度の「天顕祭」が抱える秘密、そしてクシナダスサノオの物語であるはずのヤマタノオロチ伝説が、なぜか「オロチの君」とクシナダの物語となっているヒロインの夢――。様々な謎を孕みながら、静かにしかし徐々に激しく想いを募らせていく二人、そして迎える天顕祭の日のクライマックス。実に読み応えがありました。

 世界の構築とその見せ方、そして力強い愛の物語、是非ご一読を。