佐野絵里子『たまゆら童子』
今週前半はあまり新刊を買っていないので、過去に買ってレビューしていなかったおすすめの作品をご紹介。
時は平安から鎌倉期。その時代に生きる人々の前に姿を現わす不思議な童子。
その童子との邂逅で開かれた人々の心の扉。そこから流れ出す物語。
恋に悩む者、出世競争に血道をあげる者、己が目指す道の途中で立ち止まる者、人生の苦しみに迷う者、そんな人々の前に、ふと姿を現わす童子。
道長、晴明、西行、紫式部・清少納言、義経。そんな誰もが名前を知っている有名人から、名も無き民草に至るまで、人々の前に時代と場所を越えていつも同じ姿をとって現れる不思議な彼の言葉は、心に小さく暖かな火を灯します。
歴史の流れ・事件の裏側に確かに存在した「人間」達。そういった人々の心の機微を、平安の習俗とともに丹念に、優しく描いています。16ページで一話完結という体裁ですが、その短い尺の中で、童子と出会った個人の人生を浮かび上がらせ、その心の内を明かし、柔らかな余韻をもって話を閉じています。これが本当に巧い。
誰もが知る歴史上の事件や有名人のエピソード、あるいは今昔物語などに語られた物語。そういったものの傍らに等身大の人間の姿が浮かび上がってきます。
柔らかく幻想的な筆使いと相俟って何とも言えない暖かさと優しさに満ちた、心に沁みる一作です。
1巻と2巻「梅の淡雪」、3巻「夢占」で完結。
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