大石まさる『環水惑星年代記』
「ヤングキングアワーズ」連載中、近未来の地球を舞台として描く読み切り連作集「水惑星年代記」シリーズ3巻目。
科学が進歩している未来でありながら、木々や水面や星空、四季の移ろいや人々の生活にノスタルジックな空気を色濃く残すこの世界観が堪りません。
本作中に描かれる「水惑星」の文化というのは、その高い科学技術が発揮されているのは基本的に宇宙・空に繋がっていく部分(軌道エレベーターや月面基地など)で、それ以外の部分、地上に暮らす人々の様子というのは、一昔前のゆったりとして少し不便さを伴うような、でもそれがどこか懐かしさと暖かさを感じさせるようなものであるというのはこの作品を読む上で一つポイントかも知れません。
一番「いい」時代が続く地上と、それをそのままにしておくことを許す新天地への希望と見るべきか、それとも帰るべき場所と進むべき場所の比喩と見るべきか。
とにかく、この地上と宇宙の関係が生み出すノスタルジーが実に良いのです。
そんな世界で生きる人達の物語がまた何とも気持ちの良いもので。
好きなものに打ち込む者、夢を掴むために努力する者、みな純粋で前向き。
そういった登場人物達の姿を衒いも無く、さらりと描いているためにさわやかな読後感を味わうことができます。
一つの世界を同じくする連作集のため、それぞれの話は独立していても一つのエピソードと別のエピソードがリンクしていたり、登場人物が繋がっていたりという面白さもあり。
カケアミを多用した描写が生み出す陰影の描写が雰囲気があってまた実にいいなあ。
と、読んでいると様々ないいなあ、いいなあ、が出てきてで飽かずに何度も読み返してしまう作品であります。
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