柴田ヨクサル『ハチワンダイバー』4巻

 斬野との「勝った方がアキバの受け師を自分のモノにする」という勝負に敗れた菅田は、凄まじい喪失感と悔しさの中、以前勝負をした二こ神と再会する。
 その二こ神と彼にかつて敗れたプロ棋士・海豚との鬼気迫る戦いを見せつけられ、菅田は二こ神の弟子となることを決意、二十四時間将棋漬けの過酷な修行が始まるのであった!

 そんなわけで、ハチワンダイバー・菅田の喪失から復活を描く第3巻。
 将棋でしか人生を歩めない男達の執念と気迫が詰まりまくっております。

 20年前に二こ神に敗れた一局が忘れられず、その敗北の「毒」がその後のプロとしての将棋に影響しつづけた海豚。「その毒を解毒しにきた」と語り、ホームレスとなった二こ神にプロとしてのプライドと将棋人生を賭けて再戦を挑む彼と、その勝負を受ける二こ神。
 そこで語られる二こ神の人生もまた将棋への狂おしいまでの執念によってきざまれてきたもの。将棋のみに集約される二つの人生のぶつかり合いが、「バチィ」「バチィ」と凄まじい音とスピードで指される見ているだけで圧迫されるような将棋として描かれております。
 直線的な大ゴマと巨大な文字、そして執念が込められた台詞群が生み出す尋常では迫力とスピード感。棋譜など分からなくてもその空気に飲み込まれてしまいます。

 そんな行き詰まるような勝負を描いている一方で、随所に挟まれる笑いがまた素晴らしい。ブリッジの姿勢で悪夢に魘される菅田とか、プロ棋士を目の前にして土手に正座して滑り落ちてしまう菅田とか、おっぱい揉んだ問題について菅田を問い詰める二こ神とか。
 「おっぱいを揉んだらお前は弱くなる」理論の、何かそれ一筋でやってきて他に男達の哀しさと滑稽さを表しながら同時に具えている素晴らしい説得力。
 おっぱいに触れて菅田の将棋の力は半分になったと断じる二こ神が、その力を元に戻してやるから「俺の弟子になれ」という言葉に対して、菅田の「イヤです」というノータイムにして力一杯の拒絶とか。

 そんなやりとりも、二こ神と海豚の凄まじい勝負を目にした後は「弟子になれ」という言葉に対して真摯に「ハイ」と答えるようになってしまう展開の心憎さに繋がっております。

 いやー。凄まじいテンションを保ったまま展開していく物語に全く目が離せません。間違いなく今最もアツい漫画のうちの一つでありましょう。

ハチワンダイバー 4 (4) (ヤングジャンプコミックス)ハチワンダイバー 4 (4) (ヤングジャンプコミックス)
柴田 ヨクサル

集英社 2007-09-19
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