kashmir『デイドリームネイション』1巻

 「まんがタイムきららMAX」の『○本の住人』、「電撃大王」の『百合星人ナオコサン』に続き、「コミックアライブ」連載中の本作がようやっと単行本化。これまたkashmir先生の不思議なセンスが炸裂した作品となっております。

 地方高校の漫研に所属して、特に起伏のないだらだらとした高校生活を送っていた知春と夏穂。
 夏の日の放課後、二人が部室に行くと銀髪の青年が吉田秋生の『バナナフィッシュ』を全裸で読んでいたのでありました。その青年は裏山の神様で、いつの間にやら漫研の部室に入り浸りに。しかし神様が来たからといって大きな事件が起こるでなく、相変わらずだらだらと夏の日は過ぎゆくのでした。非日常をも凌駕する日常。

 既刊の2作に比べて妙なテンションの高さは抑えめで、ローテンションな展開の中、微妙に脳が湧いたイベントが起きて、でもそれが特別なこととせずに受け流す、という余人には中々描けそうもない独特の味わいが全編に満ちております。常に何か変な事は起きているのだけれど、大局的には何も起きていないという。

 それを包み込む漫研のおたく要素がまただらだら感を一層強いモノに。元々が「だらだらだべる」をコンセプトとした準エッセイ漫画として設定したとのことなのですが、なるほど、と妙なテンションの漫研部員達の醸す空気が神様の非日常性を飲み込んでおります。尤も、神様自体も最初っからローテンションで漫画読んでるだけなのですが。
 また、コマの端々にちょこっと登場する本や小物のマニアックさがおたく心をくすぐります。

 「何も起こらないこと」を描いていながら、全体的にとても変。変だけど何も起きていない。
 やはりこのセンスはすごいなあ、とkashmir作品を読む度に思うのです。……思うのですが、文章でなかなか伝えられないのがもどかしい。「マジカル風土病」とかやれてしまうセンスも含めて。

 ところで、kashmir先生の描く「少女」は別にそういうことは何もしていないのに、表情や佇まいに妙に性的なくすぐりがあると思うのです。これもまたいいなあ、と。