安倍夜郎『深夜食堂』1巻

深夜食堂 (1) (ビッグコミックススペシャル)

深夜食堂 (1) (ビッグコミックススペシャル)

 夜の12時から朝の7時までが営業時間、メニューは豚汁定食にビール、酒、焼酎だけ。こぢんまりとした、どこかうらぶれた感じのある通称「深夜食堂」。メニューにないものでも、できるものなら注文すれば作ってくれるその食堂に集う人々と、人生の一場面。

 仕事の後で疲れた人、堅気の職でない人、真夜中の静かな時間にこの小さな店に立ち寄る人々が注文するのはタコ形に切った赤いウインナー、一日置いたカレー、猫まんま、ポテトサラダ、ナポリタン―――上等でもないけれど親近感を覚える料理、どこか懐かしい感じのする料理。そんな料理を介して透けて見えるお客さん達のありふれた、しかし実に人間くさくてどこか心に沁みるドラマを飄々と描いております。

 身近な料理を軸に語られる小さなドラマは、小さいが故に非常に上手く纏められていて、そして軽やかな余韻を残して次々に展開していきます。小さい店のマスターとお客さんの距離感と相俟ってどこかほっとする滋味溢れる物語の数々。いや、これはちょっと上手すぎる。

 社会的立場の異なるいろいろな人達が、食べ物を介してその人生のほんの一部分を共有する場所で見せる小さな物語。その物語が主でありますが、何の変哲もない料理・身近な料理を描きつつ、描写が凝っているわけでもないのに堪らなく美味そうに見えてしまうのはやっぱりそこに不可分に結びついた物語の巧さの故でしょう。