福満しげゆき『生活』1巻

生活1

生活1

 コンビニバイトで食いつないでいる青年とワイヤーワークで下着ドロを繰り返していた少年。ひょんな事から出会った社会にぼんやりとした不満と苛立ちを覚える二人は、社会の小さな悪(と彼らが思った者)をやっつけては高いところに吊す「吊し魔」として世間を少し賑わせるようになる。
 そこにモラルの無い若者をハンマーで殴り倒し、若者殴り魔と呼ばれるようになった初老のサラリーマンが加わり、町の治安を乱す者達をどんどん懲らしめていく。
 いつしか彼らの行動は知れ渡り、一つの組織として機能し始めるが―――

 福満しげゆきが描く初の長編ストーリー漫画にして、アクション(?)漫画。マナーのなっていない若者達を、冴えない種類の人達が懲らしめていく様はちょっと爽快。―――ではあるのですが、それ以上にダウナーな空気と妙に乾いた諦観が全編を覆っていて何とも奇妙なユーモア溢れる作品に。
 冴えない人達の戦いの物語、ではあるのですが、決してヒロイックではないのが凄い。

 適当に社会に対する小さな憤りを解消していた行為だったものが、次第に祭り上げられて小英雄的存在になり、人々が集まるようになり、気が付いたら下にいるのは自分たちが嫌いな今時の若者達ばかり。それに違和感を覚えて主人公の青年と少年は辞めてしまうわけですが、その理由が「今まで……ちょっとおかしくなってたみたいだ」とだけ。皮肉っぽく、ドラマチックに描こうと思えばいくらでも描けそうな話なのに、このドライさと小市民的感覚といったら。

 社会に対する不安や不満の小さな爆発と、それによって体験する非日常。しかしそれは束の間のことで再び代わり映えのない日常に帰っていこうとする主人公達。しかし、その非日常にひかれて再び足を突っ込むことになりますが、その根っこにはやはりどこか冴えない、うらぶれた感じがつきまといます。行動を起こした後で、「え〜〜、何でこんなことしちゃったんだろう……」と頭をかきむしる主人公の青年。戦いが始まっているというのに、この冴えない感じはただごとではありません。この等身大のしょっぱさ、小市民的感覚の鋭いこと。

 バトルを描いてこんなにも味わい深い作品、というのはなかなかお目にかかれません。気になる人は是非ご一読を。