日坂水柯『めがねのひと』

めがねのひと (ジェッツコミックス)

めがねのひと (ジェッツコミックス)

 日坂水柯先生の描く恋人達のやりとりは、ラブいし描写はライトなのに、実に濃密で密やかで淫靡でたまらないものがあります。

 というわけで、『レンズの向こう』に続く短編集の眼鏡の女性達が恋人と過ごす時間を描いた第2弾。登場する女性は例外なく眼鏡をかけております。ああ、素晴らしい。

 「眼鏡の女性」に非常にこだわった描写ですが、レンズやフレームといった眼鏡そのものの描写のこだわりといったへの物神崇拝的なものではなく、眼鏡をかけた女性の佇まいとか、眼鏡の女性が醸し出す雰囲気、眼鏡という道具がきっかけとして生まれるエピソードといった有機的なものにしっとりと注がれております。

 肌を合わせることが当たり前になっている恋人達の閨での睦言に絡む眼鏡という道具。視線、体温、二人の距離。そういうものを何ともエロティックに際だたせます。ああ、眼鏡をかけたままだったり、或いはわざわざそれをはずしてむつみ合う恋人達のこの密やかで艶やかで静かな密着感はどうしたことでありましょう。

 視覚という周囲を取り巻く世界認識の大部分を担うものを大きく左右する眼鏡という道具。かけたり外したりで世界の見え方が大きく違ってくることが恋人達の距離にどう影響するか。とても繊細な感性で描かれた物語がまた読む者の心をくすぐります。