諸星大二郎『未来歳時記 バイオの黙示録』

未来歳時記・バイオの黙示録 (ヤングジャンプコミックス)

未来歳時記・バイオの黙示録 (ヤングジャンプコミックス)

 ニワトリのような形をしたチキンキャベツ、マグロの頭が生えたトロカボチャ、人面ニワトリやといった奇妙でちょっと可愛らしい作物・家畜から、人間の遺伝子が入り込んだという人型の雑草、作物を荒らす害獣として駆除される羽が生えた人の形をした「鳥」、そして他の動物の遺伝子が発現して人から大きくかけ離れた姿になった「人間」達等々――
 過去に起ったバイオテロによって様々な動植物の遺伝子が混じり合い、奇怪な姿をした生命が溢れる世界を描くSF短編SFオムニバス。

 農場や養鶏場など、遺伝子を掛け合わせた異形の生物を管理して文化的な生活を営んでいる「街」と、そこから外れた難民達と他生物の遺伝子が発現した者達が暮らす「荒れ地」の二つに階層化された世界。
 街で暮らす人々にとっては、例え人間の姿をしていたり、人間のパーツを持っていても動物は動物、植物は植物であり人間としての扱いはしません。しかしそんな街で暮らす人々もその身には他の生物の遺伝子を内包しており薬で押さえ込んでいるだけ。
 そして「人の姿をした動植物」達は人語を話し、それは遺伝子の混在によって意味もなく言葉がレコードのように再生されているだけだ、と語られますが果たして本当にそうであるのかどうか。
 人と定義されない人型の者に人間性が見出されたり、ロボットの方が人間らしかったりと、混じり合った遺伝子のお陰で姿形だけでは語れなくなった非常に曖昧な「人間の定義」世界の基盤を不安なものに仕立てております。

 そんな非常に不安な世界なのに、空虚な明るさと秩序の中に生きる「街」の人々と、そこに射す影として対比を為す「荒れ地」に関わる者達が織りなす物語ははとてもユーモラスであり、そして同時に大変に不気味であります。エピソードによっては明るいものもありますが、それだってどうしてもぬぐいきれない不安を背面に持っていて、何とも言えない読後感。今作でも諸星先生は独特の世界を我々の前に示してくれます。

 しかし、これが今の「ウルトラジャンプ」掲載作品というのは大変な事であるなあ、と。圧倒的なんですけれども、雑誌掲載時に誌面の浮いている感も凄い。「UJ」購読層と諸星先生の読者層は大きく乖離しているんではありますまいか。