シギサワカヤ『ファムファタル 運命の女』1巻

ファムファタル 1―運命の女 (電撃コミックス)

　主人公の大学生・斉藤一（通称ハイ君。一をハイフンと読み間違えられたことから）はサークルの先輩で院生の海老沢由佳里に片思い中。しかし彼女は同じサークルのOBで社会人の彼氏持ち。おまけに大変に「天然」な人であるが故にハイくんのハートを翻弄しまくるのでありました。

　ああ、なんともタチの悪いヒロインであります。そして同時に実に愛おしく魅力的なヒロインでありましょうか。
　ちっちゃくて守ってあげたくなるような可愛らしさと、誰からも好かれる明るさ。そして韜晦しているのか天然なのか本当に判然としないはぐらかし具合。言動の可愛らしさはもちろんのこと、このぽやんとしたミステリアス加減が男心を鷲掴みであります。

　そんな彼女に想いを寄せるハイ君の視点から描かれる物語は、何というか実にしんどい。海老沢さんの言動にいちいち翻弄され、自分の行動は全てはぐらかされて効果の程が見えず自己嫌悪ばかりが募り、でもやっぱり彼女の事が気になって気になって仕方ないという。
　彼氏持ちだから、という大きな壁と、でもその彼氏と上手くいっていない風だという小さな希望がまたしんどい。
　その彼氏とハイくんの間で微妙に気を持たせるような言動を採る海老沢さんが実に厄介で、それが計算尽くでなく素なのが更にまた厄介で――ああ、もう！

　実に実に厄介な恋に身を焦がすハイくん、厄介なだけにより一層想いは募り、もう抜け出せない恋の泥沼にずぶずぶと身を沈めております。
　読んでいるこちらもハートをぎゅうぎゅうと掴まれる何とも難儀な恋の物語。この先どうなるのか、実に気になります。

　いやー、海老沢さんは実に厄介だ。厄介ですけれども、それがまたなんというかイイ。――男って救われませんな。