小谷あたる『まかないこむすめ』1巻

はねむす』のざちお先生の「小谷あたる」名義での初作品。

 家政婦の中山千恵子が派遣された先は女流作家・柳沢さなえのところ。やる気に満ちて仕事先を訪れた千恵子ですが、「家政婦なんて頼んでいない」と断られてしまい――

 そんな形で始まった家政婦さんと作家先生の日常、そして周囲の人々との交流を描く作品。中山千恵子と至って普通な名前な家政婦さんですが、別に市原悦子みたいなのではなくて、たれ犬耳のちんまくて可愛らしい娘さんであります。小学生から年下に見られるくらいにちんまくても16歳だったり、コケシ好きだったりと、微笑ましくも中々にキャラも立っていたり。

 さなえ先生の方も取っつきにくい人かと思いきや、ずぼらだったり色恋沙汰に弱めだったりと可愛らしい。元は飼い猫だったらしい猫耳イケメンの太郎との微妙な関係が今後どう展開するか非常に気になるところ。
 太郎に不意を突かれて赤面する様子など大変に心くすぐられるものがあります。「エス小説」なんて表現を使っちゃうあたりもまた何というか実にいいですね。
 そして、千恵子が好きな少女小説作家が実は――というお約束もあり、そこで展開する微笑ましく暖かなエピソードがまた巧い。

 作中で物語世界について特に言及される事はありませんが、太郎の存在や、千恵子の耳の描写などからも分かる通り、ちょっとファンタジーな世界観。日常の描写は我々の世界のそれとほとんど違いはありませんが、その微妙な違いが物語の空気をより柔らかなものにしております。

 心がほこほこしてくるようなかわいらしさと暖かさに満ちたお話をどうぞ。