都留泰作『ナチュン』(1)

 脳を半分失った天才教授が撮った延々と続くイルカの映像を見ているうちに人工知能の論理に天啓を得た青年は、その完成のため野生のイルカを求めて沖縄へと辿り着き、地元の漁師ゲンさんの漁師生活を手伝う傍ら、イルカの観測を開始する――
 アフタヌーン連載中の沖縄海洋SF漫画。いや、そんなジャンルはないですが。

 SF的な導入で始まり、人工鰓肺とか作中にもそれらしき道具立てが登場して世界設定を提示しておりますが、登場人物達がやっていることは沖縄の海と港を舞台にぐでぐでとした生活。
 主人公も「これが完成すれば世界征服だ!」とか言う野心家のくせに、頭でっかちでどこかへたれた感じだったり、腕っこきだけれどはぐれ者の漁師、ゲンさんのダメ人間っぷりとか人物描写も冴えております。
 特にゲンさんの剛毅そうでありながら実はナイーブ、そして気分屋というダメなオッサンっぷりはとても魅力的。

 そして物語の鍵となるであろう、イルカ達と心を通わせる言葉を話せない女。彼女とゲンさんの関係もまた一つのキモでありましょう。

 この中でどう物語が転がっていくか、全く予想できない何とも不思議な味わいの作品。しかし間違いなく面白い。
 ごちゃごちゃとした密度の濃い書き込みも、雑多な街の味わいを伝えております。

 ところで、この作者は大学の助教授さんだそうで。大学で教鞭をとりながら漫画を描くってすげえなあ、と思うと同時に細部のリアリティに納得。

ナチュン(1) (アフタヌーンKC)

ナチュン(1) (アフタヌーンKC)