藤田和日郎『邪眼は月輪に飛ぶ』

邪眼は月輪に飛ぶ (ビッグコミックス)

邪眼は月輪に飛ぶ (ビッグコミックス)

 その目に見られたものは全て死ぬという「邪眼」のフクロウ。
 対するは13年前にそのフクロウと向かい合い、一度は撃ち落とした老猟師・鵜平。
 「邪眼」によって死の街と化した東京。
 これは魔物と老猟師の命を賭けた戦いの物語。

 13年前、止めを刺される前に米軍に回収された邪眼のフクロウ。
 「ミネルヴァ」と名付けられたそれは、米空母の座礁により再び空へ舞い上がる。
 ミネルヴァの視線によって東京にもたらされる大量の死。
 自衛隊も、米軍も圧倒的な死を振りまく「邪眼」の前には全く歯が立たない。
 そして米軍の要請を受けて再び銃を手にした鵜平。
 彼の義理の娘・輪、CIAエージェントのケビン、デルタフォース隊員のマイクらの協力を得て、今度こそミネルヴァを「サジナワセ」るために旧式の村田銃一丁だけを手に魔物に立ち向かう。

 『うしおととら』『からくりサーカス』の藤田和日郎が、「ビッグコミックスピリッツ」で連載したバトルロマン。

 13年前の戦いで妻を喪いながら、その仇敵に止めをさせなかった鵜平。
 母を戦いに引きずり出した男として、鵜平を許せない輪。
 重大な秘密と消せない過去と背負ったケビン。
 たった一羽の鳥にデルタフォースの仲間と誇りを奪われたマイク。

 それぞれが抱えた事情・思惑が、命を賭けた戦いの中で「打倒ミネルヴァ」の下、一つにまとまっていく様がヒューマンドラマとしても熱いのです。特に、わだかまりを抱えた鵜平・輪の親子関係が解消されていく様子は、どうしようもなく不器用な父親と、その父親の真意を知った娘といった形で、王道でありながら熱く胸を打ちます。

 そして「見ただけで相手が死ぬ」という圧倒的な能力に加えて、殺気を感じ取りそれに反応することができるというミネルヴァをどうやって撃ち落とすかという点も素晴らしく物語を引っ張っております。
 世界一流のスナイパー達の六方からの同時長距離射撃さえも返り討ちにしてしまうミネルヴァの能力。
 老猟師の村田銃一丁で一体それをどうするというのか。その戦いに最後まで目が離せ亜ません。

 また、鵜平とミネルヴァの関係がいい。山に住むものとして獲物に人間同等の敬意を払う猟師の生き方。
 妻を殺されたものの、それとは全く別に一つの命と命という対等な関係で戦いに臨む鵜平。
 同族さえも視れば殺してしまうことになるミネルヴァが抱える孤独と、命を奪うことでしか生きられない者という互いの似通った境遇が熱い戦いの中で哀しみを帯びて語られます。

 1巻完結ですが、その短い中で大破壊のカタルシス、戦いの緊張感、男の生き様の熱さ、命の物語の哀しさなどいろいろな要素が密に詰まった作品。
 ミネルヴァと鵜平、13年越しの決着のシーンには鳥肌が立ちました。