石塚真一『岳』4巻

 山岳救助ボランティアを務める島崎三歩。彼の活動を通して描く山と命のドラマ、4巻目。
 遭難救助という命のギリギリの現場での話を描きながらも、義務感に駆られた熱血物でもなく、お涙頂戴の人情物でもなく、ヒューマンドラマを描きつつも、自然と生命とが対等なニュートラルな話として成立させているのがすごいなあ、と思うのです。

 この4巻に収められたエピソードの一つ「択一」は、同時に別の場所で起きた遭難事故の話。
 助けに行けるのはどちらか一つ、という状況の中で三歩が下した決断とは―――。

 三歩の決断により分けられた生と死があるわけですが、その決断に至る理由は実にシンプル。
 その決断に至る逡巡、決断の重さ、そんなものを全く表に出さずに遺された者と向かい合う三歩ですが、言葉を尽くすよりもそれは誠実で、山で喪われた命に対して悼む想いが伝わって来ます。

 山という美しくも厳しい世界でともすれば簡単に喪われる人の命。
 その命に対する三歩の優しさが実にいいのです。

岳 4 (4)岳 4 (4)
石塚 真一

小学館 2007-04-27
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