武田日向『狐とアトリ −武田日向短編集−』
山奥の神社に姉と二人きりで暮らしている巫女のアトリ。「嘘は嫌い」「狐は嘘つきだから嫌いじゃ」と宣う彼女のもとに狐が訪れ「まるで己は嘘と無縁かのような言い草」との言葉を突きつける――という「狐とアトリ」。
入院中に人形遊びに逃避する内気な女子高生・実。彼女と相部屋になった全くタイプの異なるオシャレで快活な少女・叶との出会いにより少しづつ変わって行く――という「ドールズ・ガール」
以上の2編と「やえかのカルテ」番外編を収録した短編集。
「狐とアトリ」
「嘘」と「真実」を鍵に物語が展開する表題作。嘘を極端に嫌うアトリに語りかける狐の言葉は一体何を意味しているのか。狐を嫌うアトリに対して、姉が妙に狐に優しく接するのはなぜか。仲の良い姉妹の間にある「嘘」と「真実」。二人にとって大切なのは一体何でありましょうか。
姉にべったり甘えたり、嘘を嫌って一途な行動を取るアトリは可愛らしい。そして、そういうアトリの全て包み込む姉上の優しさがこの物語の要でありましょう。
山奥の壮麗な社と、巫女の姉妹、そして狐という道具立ても非常に雰囲気があって良いですね。
「ドールズ・ガール」
人形の衣服作りで叶と仲良くなった実は、叶との友情がずっと続けば良い、と願うようになる。しかし、何となく叶が口にした「永遠に変わんないものなんてあるわけないじゃん?」という言葉に深くショックを受けてしまった実。彼女と叶の友情はどうなるのか。
入院生活の中で、自分の周囲の事が変化してしまう事を恐れて「永遠」であることを理想としている少女 実。彼女とは反対に「今」を大切にする少女 叶。変わらないモノの象徴としての人形を愛でる実が、その人形を通じて叶との友情を結び成長していきます。
繊細な線で描かれた可愛らしいキャラクターと、緻密に書き込まれた背景が大変に魅力的であります。表紙を見て惹かれたのであればそれだけでも手に取る価値はありでしょう。
収録作品共通するのは「優しさ」。心がちょっと温かくなるようなそんな物語をどうぞ。
狐とアトリ―武田日向短編集 (角川コミックス ドラゴンJr. 111-1)
- 作者: 武田日向
- 出版社/メーカー: KADOKAWA(富士見書房)
- 発売日: 2007/06/09
- メディア: コミック
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