「コミック百合姫S」創刊号

 「コミック百合姫」の姉妹誌として新創刊の季刊誌。「百合姫」でおなじみの作家から、一迅社の雑誌初登場の作家まで、幅広い作家陣が「百合」を題材に筆を揮っております。「百合姫」連載作家以外の作家陣を見るに、成年系作家も多く、本誌に比べて男性読者にターゲットをより絞った雑誌と言えるでしょうか。

 女の子同士の恋愛の切なさをしっとりと綴った作品もあれば、ポップで明るい作品もあり、なかなかバラエティに富んだ作品が集まっていて華やかな印象。
 女の子同士の恋愛要素さえあればあとは比較的自由、といった感じで作品毎に百合度の濃淡が結構あり、逆にこれが雑誌的にはメリハリ効いた感じになっているのかも。

 以下、いくつかピックアップした作品別感想を。

宮下未紀「マイナスりてらしー」
 金持ちから借金まみれになってしまったお嬢様と、お付きのメイド。彼女らのもとに給食費の請求にやってきた委員長。「マイナス金運」なる悪運故に没落した、と語るお嬢様に委員長は――
 お嬢様とメイドの麗しい(?)関係を描きつつギャグっぽいオチに。世間知らずで偉そうなお嬢様がなかなか可愛らしい。
 ただ、借金まみれならもうちょっと色々処分するものがあるだろうに、とか細かい事を想ったりもしますが、そこら辺は、まあ。

■柏原麻美「フォーチュン・リング」
 すり切れるまで身につけていると願いが叶うというフォーチュンリング。水泳部の先輩に憧れる少女は、その先輩の腕に結ばれたフォーチュンリングを見つけてしまう。彼女も自分では結べずにいたリングを先輩から結んで貰うが――
 先輩の腕のリングから想い人がいることを知り、また自分に結んで貰った事から先輩の心は自分の方には向いていない事を知った少女。しかし、リングをしていると常に先輩の事を強く意識してしまうという恋愛のもたらす呪縛。傷つきながらも自分の想いに整理を付けて再度立ち上がる少女の成長を描いております。うまいなあ。

あらきかなお「ポエムに恋して」
 不器用なんだけれど、ひとたびポエムにすれば饒舌になって言葉が突っ走ってしまう少女と、彼女が憧れる先輩のお話。
 「好き」のあまりに突っ走ってしまう少女の行動と言葉がポップに描かれていて大変に楽しげな作品。ポエムがアレだったり、ちょっとアホの子だったりする主人公が可愛らしくて良いですわ。

吉富昭仁SUIKA
 スイカを一人で半分食べきると願いが叶う、という変なおまじない。夏休みのある日、転校を前にした少女とその友人がそれぞれの願いを込めてスイカを食べ始めたが……
 ずっと続くと思っていた当たり前の日の終わりを前にした本人達も結果が分かり切っているささやかな抵抗。どこかノスタルジックで楽しくてちょっと哀しくて、と夏の想い出の一日を綴っています。
 これはいいなあ。タイプの異なる二人の少女がスイカを介して互いの想いを打ち明ける様がユーモアがありながらちょっと切なくて。
 あと、スイカの中身を湯船にぶち込んでスイカ風呂にしたら何かエロいよね、と語る少女の言葉はなんだか変態的なエロスを感じますが、まさにその通りであるなあ、とも思うのですが如何。

すどおかおる「オトメキカングレーテル」
 あこがれの名門女子校に転入してきた少女。麗しの乙女達とのきらびやかな学園生活が始まるかと思いきや――
 ――多分、この雑誌内一番の異色作。百合+甘味+異能力バトルでちょっとビックリ。色々はっちゃけてるなあ。

石見翔子「flower*flower」
 政略結婚で異国に嫁いできた王女・ニナ。だが、本来の婚約者である王子・蒼を振り、その妹の朱と結婚宣言をする。残酷なまでに冷たい態度を取る彼女に対してどう対処していいかさっぱり分からない朱だが……
 心を開く前、仮面を被ったままのニナ笑顔が怖くもあり、一種独特の美しさもありで、妖しい魅力を放っております。それらの表情と心を開いた後のギャップがステキ。
 しかしまあ、女の子同士で政略結婚成立しては色々と今後両国に問題があるのでは、と百合方面を離れて思わないでもないです。血筋の問題とかどうするんだろう。

 以上のようになかなかバラエティに富んだ作品が詰まっております。
 百合、という視点を抜きにしてもなかなか読ませるのではないでしょうか。

 ただ、全300ページチョイで880円という値段設定に割高感が。
 私はレジ持ってくまで価格を全く気にしていなかったので金額を告げられてちょっとビックリ。