衣谷遊『極東綺譚』1巻

 人に根を張る「人媒花」に憑かれた少女・暮緒と、彼女を遊郭から身請けした文身の男・九鬼銃造。
 この二人を主役として、異形が姿を現わす明治を舞台に描く伝奇浪漫。

 人に根を張り花を咲かす奇怪な人媒花、それから発生する異形の者といった伝奇的要素に、亀鼈の民と呼ばれる海洋民、それを研究する異端の学者、子供強飯、草薙の剣の解釈などといった思わせぶりな民俗学的ガジェットをちりばめながら描かれる九鬼と暮緒の旅。
 しかし、それらの明確な意味が語られぬまま物語は進展し、読者はそれらの要素から放散されるイメージを感じ取りながら、疾走していく物語を追いかけていくしかありません。

 全くワケが分らない、という人もいるかも知れませんが、逆に訳の分らないまま、圧倒的な画力で描かれるイメージの奔流に身を任せてしまうのは一種の快感と言えましょう。

 亀鼈の民なる海洋民の名称、九鬼の身体にある入れ墨から連想される南方海洋民族のイメージ、「海は産み、陸は戮」という九鬼の師匠である学者の言葉など、物語は「海」を指して走っております。
 柳田国男の『海上の道』などを連想したりして、日本人のルーツに繋がっていく話なのかしら、などといろいろ想像はふくらみますが、現時点では物語の着地点は不明。
 これらの与えられたイメージが今後どのように物語の道筋を作っていくのか非常に興味深い一作であります。

極東綺譚 1 (1)極東綺譚 1 (1)
衣谷 遊

講談社 2007-06-22
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