原作:南條範夫 漫画:山口貴由『シグルイ』9巻
伊良子の「無明逆流れ」を受けて左腕を切断されて倒れた藤木。
その藤木に代わって助太刀として仇討場に立つ牛又。
迎え撃つは検校が雇った手練れ十一人。
狂剣士と化した牛又の木剣が唸りを上げ、仇討場は地獄と化す!
そんな感じで牛又師範が凄まじいまでに活躍する第九巻。
巨大な木剣が振るわれるたびに飛び散る血と肉塊と臓物。人間の範疇を超え「牛鬼」に例えられる戦いぶり。
その凄絶な戦いぶりを裏付けるように差し挟まれる牛又の過去。
将来を誓った女に対する密かな恋慕を虎眼先生に看破され、剣の道に生きるために彼女を斬り殺し、けじめとして自ら去勢。
原作で牛又が三重の婿候補となっていないのは既に妻帯していたからでありますが、「シグルイ」では独身かつ門下で最強といっても良い力量を有しながらも、虎眼先生が彼を跡継ぎの選択肢に入れなかった理由がここで明らかとなっております。
その荒れ狂う牛又を止めようとした藩士・石田凡太郎。彼の差し出した水を飲み穏やかな表情を見せた牛又ですが、次の瞬間には素手で八つ裂きに。
それを屈木頑之助が見ての
「蝦蟇は知っていた 餌に出くわした獣は決して唸ることなく 穏やかな眼をすることを」
という描写も実に振るっております。
「笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である」
という4巻に登場した説明といい、牛又師範の穏やかな表情は全く恐ろしいったらありません。
とにかく圧倒的な力量を見せつける牛又師範。
原作ありの作品である以上、読者は物語の先の展開を知り得るわけで、この勝敗の帰結についても既に分かっている話になります。(原作未読、とか敢えて読まないという選択はあるにしろ)
虎眼先生の時もそうでしたが、そんな状況に対して「この人が負けるということが信じられない」という異常な強さ・インパクトを発揮させて、その結末に一体どやって持って行くのか?! という物語展開に対する興味を増大させる手腕は流石としか言いようがありません。
その読者の期待を裏切らない凄まじい展開を虎眼先生の最期。
この伊良子VS牛又の勝負の結末にここから先、一体どのような展開が待つのか、そしてその最期はどうなるのか、非常に楽しみでなりません。
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