タイム涼介『アベックパンチ』1巻

「青くもなく春でもない それがおれらの青春さ」

 冒頭に掲げられたこの言葉の通り、潤いや充実感とは無縁の青春を送るはぐれ者達の青春ストーリー。

 学校にもろくに顔を出さず、ケンカに明け暮れる生活を送るヒラマサ。
 小学校からの腐れ縁で彼とつるんでいるイサキ。
 無類の強さを誇るヒラマサだが、ある日因縁をつけたアベックが繰り出した奇妙なパンチにKOされてしまう。
 屈辱のヒラマサはイサキとともにそのアベック捜しをはじめ、やがて彼らが「アベック」というスポーツのチャンピオンだった事を知り、試合会場に殴り込みをかけに行くが――

 盗んだバイクで走り出す的な青臭い衝動を持つ程にピュアではなく、人生の不条理に悩みを抱く程に小器用でもないイサキとヒラマサの二人。
 悩むそぶりも見せず、ただ本能の赴くまま突っ走るヒラマサに対して、仕方のない馬鹿だと呆れつつも、そのシンプルさにどうしようもない憧れを抱いているイサキ。この二人の織りなす友情が何とも滑稽で、しかしほろ苦くて良いのです。

 荒んだ己の人生を省みて、ある種の諦観と自虐を以て語るイサキのモノローグは、飄々としていて滑稽でしかしどこか哀しい「はぐれ者のリリシズム」とでも言うべき詩情に満ちていて、これがまた素晴らしい。
 このイサキのモノローグが物語の通底音として機能しており、作品の空気を作り出しております。

 そんな未来の見えない無軌道な若者二人の人生に突如現れた珍妙なスポーツ「アベック」。男性と女性が一組となり、互いに片手を繋ぎ合わせたまま戦うというこの競技のチャンピオンに挑戦するため、イサキとヒラマサの新たな目標が生まれますが―――まず、女性に対してデリカシーの欠片も無いヒラマサにパートナーができるのでありましょうか。そのあまりにも困難な挑戦は始まったばかりで挫折気味なのでありました。

『明日の弱音』で開拓された青春のやるせなさと滑稽さが入り交じった詩情が炸裂する本作。
 パワフル且つ繊細な登場人物達の描写、リズム感あふれるセリフ回しも素晴らしく、また「アベック」なる珍妙な設定に対してアクの強い登場人物達がどう絡んでいくのかといった先の展開への興味も十二分。

 個人的には「コミックビーム」で現在連載中の作品の中では最も注目している作品です。
 好き嫌いが分かれる画風かもしれませんが、是非一度読んでみて欲しい一作です。

アベックパンチ 1巻 (BEAM COMIX)

アベックパンチ 1巻 (BEAM COMIX)