原作:京極夏彦 作画:樋口彰彦『ルー=ガルー』1巻

 京極夏彦の異色作のコミカライズ。
 妖怪モノではなく、SFモノ。

 「パイド・パイパー」と名付けられた疫病災害によって人類は壊滅し、その後に高度なネットワークが構築され、「端末」によって人間が保護・統制されている管理社会。
 そこで人々は「端末」を介したコミュニケーションを行い、直接的な人間同士の接触の機会は減り、人間以外の動物の存在さえ希で、食物さえも人造食品に置き換っており、人々は「リアル」な生命の感触から遠ざかっている。
 そんな社会の中で起きる連続殺人事件に関わった少女達の物語であります。

 他人に触れたり精神が不安定になると鼻血が出てしまうという「接触型コミュニケーション障害」の少女・牧野葉月。ボーイッシュな容姿とクールな性格にミステリアスな雰囲気を湛えた神埜歩未。14歳にして博士課程まで修了している天才少女で悪童系元気娘の都築美緒。
 この個性豊かな3人を中心に、ゴスロリ衣装に身を包んだ占術少女・作倉雛子や、矢部祐子、麗猫といった少女達が絡みながら、殺人者「ルー=ガルー」と、「生命」を巡る物語が展開していきます。

 原作からのコミカライズに際してキャラクターに加えられたアレンジもあって、登場する少女達は皆、実に魅力的に描かれております。
 最初は自分の体質に引け目を感じていた葉月がだんだんと鼻血を出しながらも強い意志で前を見据えるようになっていく姿、美緒が見せる悪戯な笑顔、心の底に何か強いモノを秘めている歩未、漫画ならではの表現で原作とはまたひと味違う魅力を醸し出しています。何でもない場面でも少女達の表情、しぐさがまた可愛らしいのも非常にポイント高いです。

 原作に飲み込まれておらず、且つ原作を毀してもおらず、漫画であることのおもしろさを遺憾なく発揮しており、小説のコミカライズとして実に素晴らしい作品であると思います。

 この1巻で描かれているのは、まだ事件のほんのさわりの部分。
 この後数々の見せ場が待っていますのでそこをどう描いてくれるか非常に楽しみであります。
 美緒の大暴れや、京極節が炸裂する雛子の語りなどがどうなるか大注目。

ルー=ガルー 忌避すべき狼 (1)(リュウコミックス)

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