葉雨たにし『いつも君を感じてる』

 雑誌連載を見たときから、きっちり話作ってくる人だなあ、と思っておりましたが、単行本でまとめて読むと一層上手さが際だつなあ、と。ちなみに著者名の読みは「はぐれたにし」。


Hなことを何にも知らない娘と二人っきり図書室での「勉強」を描く「長野さんの???」

幼なじみのお姉さんの無防備な姿を目にし、その上自分の知らない大学での話に嫉妬して――という「お姉さんにメラメロ」

従妹と二人で留守番中、Hなビデオを見ている所を見つかってしまって、結局二人でそのビデオを見ることになってそのまま――という「眠れない夜に…」

何だかとても怒りっぽい彼女。微妙に鈍い彼に対して、彼女の家で改めて語られた好きになった理由とは――「僕が彼女を好きな理由」

バイト中に自分のミスで主人公に怪我をさせてしまったドジっ娘メイド。彼女は毎日メイド服のままお見舞いに来るようになって――「あなたにパンをお届けします」

 大学進学で幼なじみのお姉さんと離ればなれになった主人公。やがて彼女は先生となって彼の前に戻ってきたものの、みんなに人気の先生は何だか別人のようで距離感を感じてしまって――という「せんせい」

隣で寝て寄りかかってきている女の子を気にしているうちに終電を乗り過ごしてしまった主人公。その娘は中学校の同級生で、すれ違ってはいたけれど実はその当時から互いに憎からず思っていたことが分かって――という「終着駅からはじめよう」

都会の生活に疲れて田舎に戻った主人公。妹のような存在の少女と行った思い出の場所で、彼女が一人で頑張ってきた事を知り――「げんきの素」

こたつで受験勉強をしている幼なじみの二人。雪で帰れなくなってそのままこたつで寝ていた二人だが、寝顔の可愛さのあまり――「こたつ大好き」

 以上の「コミックメガストア」「コミックメガストアH」に掲載された9編を収録。


 互いに憎からず思っていて、でもその気持ちが伝えられない男女が、ちょっとしたきっかけで互いの気持ちが通じ合った末にHに至る、という話が多いのですが、この最後の一線を越えるまでの、ギリギリな二人の距離感の描写が上手い。
 ちょっとしたことが二人の気持ちを後押しして、緩やかな傾斜を球が転がる様にじわじわと気持ちが盛り上がっていって、徐々に激しい行為に至る描写が情感があってとてもいいなあ、と。加えて、恥じらいの表情がまたいいのです。実にいい。とてもとてもいい。
 行為自体はノーマルですが、一つ一つの描写が執拗で細かいのも個人的には好みであります。細く柔らかな線で描かれた画も実に魅力的。

 話的には気が強くて太眉で素直じゃないヒロインが可愛らしい「僕が彼女を好きな理由」、近づく二人の気持ちと、恥じらいの表情がいちいち絶妙な「終着駅からはじめよう」、ラブい話なのにこたつという道具のおかげで描写が淫靡な「こたつ大好き」の三編が特にお気に入り。

 エロ漫画には愛と心の交流こそが重要だ、という人には間違いなくお勧めであります。

いつも君を感じてる (メガストアコミックスシリーズ No. 145)

いつも君を感じてる (メガストアコミックスシリーズ No. 145)