いましろたかし『化け猫あんずちゃん』

化け猫あんずちゃん (KCデラックス モーニング)

化け猫あんずちゃん (KCデラックス モーニング)

 お寺に拾われた捨て猫、あんずちゃん。
 何故かその子猫はいつまで経っても死なないで30年が経って、二本足で立ったり喋ったりが化け猫となりました。
 そんなあんずちゃんの日常を描いた話。
 今は亡き「コミックボンボン」に掲載。

 あんずちゃんが化け猫になったからといって周囲は別に特別な反応を示すわけでもなく、ただ「そういうもの」として受け止めており、またあんずちゃん自身も何をするわけでなく、お寺の居候として微妙にぱっとしない日常を気負うことなく淡々と送っております。

 按摩の仕事をしていますが、お客は一人しかいなかったり。
 その出張の帰りにバイクの無免許運転で捕まったり。
 テキ屋をやってみて、落としたイカ焼きを「火を通せば大丈夫だか」とそのまま焼いてみたり。でもあんまり売れなかったり。
 インキンになってしまったり。
 おかみさんの財布から1000円取ったことを気に病んで謝ろうか黙っていようか悩んだり。
 山で妖怪仲間に会って、夜中にこっそりお寺に呼んで一席設けてみたものの「あいつらつまんねーからもう呼ばねー」とダレていたり。
 愛用の自転車を盗まれて激高したり悲しんだり。

 ひたすらローテンションな、さしたる事件も無い日常がいましろたかし独特のテンポで描かれております。しかし何もないからつまらない、という事では決してなく、微妙な枯れた哀愁と脱力感が何とも言えない滋味を生んでおります。

 『釣れんボーイ』にしろ、『盆堀さん』にしろ、この『化け猫あんずちゃん』にしろ、いましろたかしの描くキャラクター達は微妙にしょっぱい、冴えない環境に生きておりますが、そういった人たちを描きつつも、その環境を俯瞰したどこか開かれた乾いた明るさがあるのがとても魅力的。
 最後のエピソード、上空から町を見下ろすキャラクター達にそんないましろ作品に共通する「明るさ」を感じました。

 それにしても、この作品が「ボンボン」に掲載されていた、というのは大変なことであるなあ、と。
 インキンになる猫、中年オヤジがやっと入った職場で若い上司にシゴかれて味わう挫折、集まっても酒を飲んだりエロ本を読んだりしながら盛り上がるでなくぐだぐだと時間を潰している妖怪達。
 「ボンボン」の主要読者層には一体どういう風に受け取られたのか非常に気になるところです。
 最末期は迷走に迷走を重ねていた「ボンボン」ですが、でもそのおかげでこの作品が出た、というのはある意味嘉すべきことだったのかしら……。