支倉凍砂『狼と香辛料』

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

 ライトノべルには疎い私ですが、帰省中に前々から気になっていた本作を読んでみました。ですのでちょっとした感想などを。今更。
 いやまあ、もう先人が感想を色々述べているので新たに付け加える様なことはあまりないのですが。一応。2巻まで読み終わってます。

 評判通りの力作で大変に面白うございました。特に単にきれい事ばかりで済まさない商人(でも最終的にはいい人)として描かれるロレンスと、その彼を手玉に取るホロの時に手練れ、時に幼いキャラのアンバランスさが実にいい。「商売」という若干取っつきにくいテーマを牽引していくキャラの魅力はかなりのもの。
 異能の者であるホロの能力によって事件の要の部分の解決を任せる割合が大きいのは若干気になるところではありましたが、ロレンスとホロのやりとりなどもあり、最後まで大変楽しく読めました。

 しかし、読み始めていきなり「おっ!」と思ったのですが、ホロの存在は「穀物霊としての狼」として描かれているのですね。『金枝篇』第三章十節「動物としての穀物霊」*1に著されている穀物霊に関わる習俗や描写をアレンジして取り込んでおります。
 タイトルを見た時に何で「狼」なのかな、と思っていたのですがそういうわけであったのか、とこれで納得しました。
 関連語で検索をかけてもそれほど多く言及されていないようなので一応。

 この観点から行くと、この『狼と香辛料』の物語は、農村中心に回っていた社会に商業が勃興していく様を、農村から一人の商人の元へ移動したホロという神霊が彼に富をもたらすことで描写している、と見るのはちと深読みに過ぎるでしょうか。座敷童が去った家が没落する、という富と憑霊の移動のモデル*2を考えるとわかりやすいかもしれません。

 穀物霊=ホロは農村に富を約束する存在として作中でも描かれておりますし、「お前が出て行くと村はどうなるんだ」との問いがロレンスからホロに発されることも考えると、結構自覚的になされた設定と思われますがどうなんでしょうね。

 いやまあ、余談が多くなりましたが、大変に読ませるお話でした。ホロの花魁言葉の破壊力は絶大であります。

*1:ちくま学芸文庫版では下巻の冒頭

*2:この辺は小松和彦『憑霊信仰論』に詳しい