坂木原レム『モンスターキネマトグラフ』

モンスターキネマトグラフ (リュウコミックス)

モンスターキネマトグラフ (リュウコミックス)

 興奮すると怪獣に変身してしまう女性・マミヤさんは、戦時中その特殊体質を兵器として利用され、戦後は政府に監視され、周囲には白眼視されながらひっそりと生活を送っている。そんな彼女のもとに映画会社から怪獣映画の出演者としてのオファーがやってきて―――。


 ちょっとした感情の高ぶりで「あんぎゃあああ」という叫び声とともに怪獣になってしまう女性、というちょっとギャグっぽいバカバカかしい設定を基本に置きながら、戦争という時代と、それに翻弄された女性の数奇な人生を描いております。特異な体質ゆえに普通には生きることが出来ない哀しさ寂しさ疎外感、そんな彼女を必要としてくれる人々との出会い、別れ、そして恋愛。

 美女から怪獣、という設定のおかげでマミヤさんが単なる影のあるヒロイン、という立場に止まらずにちょっとお茶目なキャラ(お茶目というにはあまりにもパワフルすぎますが)になっていて物語に軽快さを与えていてとてもいいのです。
 映画撮影中に「どうしても変身できなかったらこれを開けて下さい」と手渡された袋を開けて、出てきた美少年写真集を見て変身したりと、こういうかわいらしさ、おかしさも魅力的です。自分の事を「オバサン」とちょっと気にしている辺りもまたかわいらしい。

 熱意と人情溢れる映画スタッフとのやりとり、政府からの監視役・ナカジマさんとの関係の変化も、もう王道なんですが丁寧に描かれていて実に巧いのです。同じく怪獣に変身する体質を持った子供・クミちゃんとの出会い、戦時中の因縁を引きずる外人怪獣女との再会などドラマを増しながら迎えるラスト。数奇な人生を背負ったマミヤさんが掴んだモノは。

 オリジナリティの高い設定と、しっかりと描かれた人間ドラマが魅力的な本作。実にオススメであります。

 ちなみに、今月号(08年3月号)の「コミックリュウ」にはマミヤさん達の後日譚が掲載されております。なんと舞台はコミケ


 この作品が商業誌初単行本となる作家さんですが、今後の作品が本当に楽しみです。