深谷陽『スパイスビーム』

スパイスビーム (ニチブンコミックス)

スパイスビーム (ニチブンコミックス)

 どう見てもカタギには見えない筋骨隆々でスキンヘッドの店主、妙に色っぽいウェイトレス、ワケありの客達。しかし、出す料理は大変に美味いタイ料理店。ひょんな事から店に迷い込み、そこで働くことになった主人公ですが、連日起る事件に翻弄されるのでありました。

 深谷陽先生の作品に充満する東南アジアの香りがとても好きなのですが、本作は日本のタイ料理店を舞台にしつつ、料理と店に集う様々な人々を通じてエスニックな雰囲気を醸し出しております。ちょっと雑多な感じがする背景、彫りの深い人物とか、とても好きです。

 様々な事情(裏社会的ヤバい案件含む)を抱えた人々が来店し、料理を口にすることでその美味さに元気づけられたり、天啓を得たり。明日への活力を与える憩いの場所として機能する料理店を描きながらも、どう考えても裏の世界に通じている店長やウェイトレスさんがミステリアスで魅力的でもあり、そんな裏側を気にしつつもあくまでカタギとして生きている主人公と、彼が巻き込まれる非日常がユーモラスでもあり。裏社会の影をひいた人たちが料理で癒される、というのが既に何だか妙な味があります。

 アジア料理店が舞台、どう見てもカタギではない店長、そこに勤め始めた一般人、終わり方などなど、2005年に刊行された同作者の『スパイシー・カフェガール』と共通する部分が非常に多く、リメイクと言っても良いような感じもあります。

 こちら『スパイスビーム』の方がより「料理」への比重が大きく、起る事件が表社会に近い感じ。事件の顛末や店長の正体を巡る話などの描き方からも、全体として明るいお話になっているなあ、という印象であります。

 にしても、読後にタイ料理が食べたくなる作品であります。