小山宙哉『宇宙兄弟』1巻

宇宙兄弟(1) (モーニング KC)

宇宙兄弟(1) (モーニング KC)

 幼い頃、ともに宇宙を目指すことを誓った兄弟。時は流れ、弟の日々人(ヒビト)はその誓い通り、日本人初の月面調査の宇宙飛行士に。一方兄の六太(ムッタ)は上司に頭突きをして勤めていた自動車会社を退職。無職の日々を送る彼のもとに日々人からのメールが届き、再び六太は宇宙を目刺し、弟が行く月の先、火星宇宙飛行士の選抜試験に挑む!


「兄より優れた弟など存在しない」と昔とあるお兄さんがおっしゃっておりましたが、叫びもむなしくそのお兄さんは弟に敗れてしまいました。
 兄は弟より必ずしも優れているとは限りませんし、逆もまた然りですが、本作はそんな弟に先を越されたお兄さんの奮闘記。

 かつては「兄とは常に弟の先を行っていなければならない」というポリシーのもとに必ず日々人の前に立っていた六太。しかしいつしか弟の後塵を拝する形になってしまい、かつての夢も見失っておりました。

 そんな六太を奮起させるのが弟からのメールと、幼い頃の約束。六太の錆び付いていた夢が輝きを取り戻していく様がとてもいいのです。変な味のあるお母さんの優しさ、恩師との語らいなど、周囲の人との関わり合いの中で活き活きとしていた昔の自分を思い出し、挫折から再び夢に向かって歩き出す六太の姿が力強く描かれています。

 が、錆び付いてしまっていたのにはやっぱり然るべき原因があるわけで、どうにもお調子者でヘナチョコで肝心な所でキマらないところに可愛げがあるのもまた魅力的。

 六太は先を行く日々人を誇りに思いつつ、その日々人の期待に応えるためにも自分はやっぱり兄として昔の約束通りその前に居なければいけないと思っているし、日々人は六太の力を露ほどの疑いも無く信じている。この兄弟の絆が物語に熱さと爽やかさを与えています。

 今はまだ「日々人のお兄さん」としか思われていない六太、かなり不安なところもありますが、これから彼がどうなっていくか非常に楽しみな話です。