森見登美彦/琴音らんまる『夜は短し歩けよ乙女』1巻

夜は短し歩けよ乙女 第1集 (角川コミックス・エース 162-2)

夜は短し歩けよ乙女 第1集 (角川コミックス・エース 162-2)

 山本周五郎賞受賞作となった森見登美彦の小説のコミカライズ。天真爛漫にして可憐なる黒髪の乙女と、彼女に恋して追いかける先輩の純情恋愛譚とでもいうべき原作を、今風の可愛らしい絵柄でアレンジ。

 黒髪の乙女の可愛らしさが前面に押し出されて描かれているのは角川のコミカライズ作品らしい、といえばらしい感じ。ぽやんとした乙女の愛らしさがビジュアル的に伝わって参ります。

 その乙女の可愛らしさに焦点を絞ったからなのか、主人公の先輩を始めとした気弁論部の面々、羽貫さん、樋口氏、閨房研究会の皆さん、李白翁などなど、頓狂な人々が百鬼夜行を為す剽げた感じというのは薄められて脇役に徹している印象。「詭弁踊り」の描写などもさらりと流されてしまっており残念。

 描いている話の筋は同じでありますが、物語から受ける印象は結構異なります。原作は頓狂な人物達が織りなす純情恋愛浪漫譚とでもすると、コミック版はちょっと変わったラブストーリー、とでもいったところでしょうか。愛らしさが前面に出た作りとなっております。詰め込める情報量を考えるとそういう取捨選択の上、こういうコミカライズの仕方を選んだ、と見るべきでしょうか。

 大変に可愛らしく描かれておりますので、原作を未読でコミック版を読んで原作にも興味が湧いた、という人がいましたら是非原作もどうぞ。また印象の違ったユーモア溢れる作品世界が広がっております。