機本伸司/内田征宏『神様のパズル』1巻

神様のパズル 1 (Flex Comix)

神様のパズル 1 (Flex Comix)

 一人の老人から発せられた「無から宇宙が生まれたというなら、無はそこら中にあるのだからそこから宇宙を作ることはできるのか?」という素朴な、しかし本質的な質問。この「宇宙は作れるのか?」という問題に対して飛び級の天才少女とおちこぼれ学生が挑む同名SF小説のコミカライズ。

 言われてみれば確かに、と誰もが疑問を持つこの質問を物理学で解き明かそうとし、学生達の青春模様を織り込んだ原作小説は、知的興奮弐満ちており、宇宙という大きな問題が実は一個の人間と不可分に結びついているものだということを語っておりました。
 情報量の多い原作小説ではありますが、このコミカライズ版は実に上手に処理しております。「宇宙は作れるのか?」という中心の問題が暈けないように、また煩瑣にならないように情報の取捨選択を行い、大変に理解しやすくなっております。
 原作ではとにかくクールだったヒロイン、沙羅華のキャラクターも。時に女の子らしい可愛らしい表情を見せたり、恥じらったりするオリジナル描写を挟み、天才少女と年相応の女の子の間で揺れるアンバランスさを持った「ヒロイン」として魅力的に描いております。
 主人公の綿さんにちょっと興味を持っているそぶりも見せ、青春物語成分としては原作と異なる展開を見せるのではないか、という興味もあります。
 「宇宙は作れるのか」という問題をひたすら追求した原作の沙羅華に対して、「女の子」の側面を強く打ち出しのヒロインしているコミカライズ版は華やかさが増している印象。ホームズとワトソンの関係のだった沙羅華と綿さんの関係が、もっと近く有機的になりロマンスの要素が感じられるのが一番のポイントでしょう。
 原作をきちんと追いかけながら「漫画」として見せることの意識が感じられてとてもいいコミカライズ作品。
 原作未読者・既読者ともに楽しめる良作だと思います。