藤田和日郎『月光条例』1巻
- 作者: 藤田和日郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/06/18
- メディア: コミック
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何十年かに一度、月の光によって狂ってしまうおとぎ話の世界。その歪みを正すために作られたたった一つの法・月光条例。
「青き月光によってねじれた「おとぎばなし」は猛き月光で正されねばならない」
この月光条例の執行者となった少年は、おとぎばなし世界からの使者である鉢かづきと出会い、狂ったおとぎばなしの世界の住人たちとの戦いに身を投じるのでありました。
「鉢かづき」や「一寸法師」、「裸の王様」「三匹の子豚」など誰もがよく知る物語の登場人物達が異形となって藤田演出バリバリで襲いかかってくる様は迫力・ケレン味ありでとてもステキ。
おとぎばなしの登場人物達はその物語の中の善悪によって敵味方に分かれるのではなく、物語をあるべき形に戻すために正気の者達が月光で狂った者達と戦うというシチュエーションは実に燃えるものがあります。物語の秩序を守ることこそが大目標であり、そのために物語中のヒールとベビーフェイスが共闘、その舞台に乗っかって大立ち回りを演じる主人公。狂った者達はとにかく無気味に、物語の秩序を守る者達は弱くとも毅然としていて、それを助ける主人公の粗野なまでの力。実にエンターテイメントしております。
人口に膾炙したおとぎばなしが異形へと変容する様が大変に魅力的でもあり、それをもとに戻そうとする主人公達の戦いが熱いのですが、その「我々がよく知る物語」という現在の形がそもそも祖型からどんな変遷を辿り、変容した末の物であるか、その意味では「正しい形」とは何なのか――という事を考えてしまいますが、少年誌掲載作なのでそこら辺はあまり深く考えず、よく知った、しかし大きくねじれた世界での活劇として大暴れを楽しむべきでありましょうか。