篠房六郎『百舌谷さん逆上する』1巻

百舌谷さん逆上する 1 (アフタヌーンKC)

百舌谷さん逆上する 1 (アフタヌーンKC)

 転入生・百舌谷小音は「ヨーゼフ・ツンデレ博士型双極性パーソナリティ障害」、通称「ツンデレ」の少女。自らの好意を攻撃的な言動で示してしまう、という症状を持つツンデレ患者である彼女は周囲との関わりを敢えて断ち切った孤独な生き方を選んでいた。が、ガキ大将の少年・竜田に特別な感情を抱き、結果、流血の惨事を招いてしまう。百舌谷さんが気にも掛けず人間扱いしないため普通に接する事が出来るため、奴隷と化したもっさりデブの少年・樺島君をも巻き込んで暴走する三者の微妙で奇妙な恋情の行方や如何に!


 というわけで「ツンデレとは病気である」――そんな大胆且つ斬新な設定で思春期の入り口に立った少年少女の迷走・暴走する恋愛を描く怪作。
 ツンデレ少女の百舌谷さんを中心に、彼女が思いを寄せる少年・竜田君、彼女に思いを寄せる少年・樺島君を配し、伝わらない感情やすれ違う想いといった恋愛に連なるデリケートなコミュニケーションの問題を「ツンデレ」という非常に戯画化されたシステムに突っ込んでブン回して、破壊的なコメディへと昇華しております。

 自らの病気と、それによる周囲の反応に嫌気がさし、周囲の人間と距離を置く百舌谷さんは痛々しいまでに孤独であり、寂しさ哀しさを醸し出してもいますが、それ以上に、あまりにもストレートすぎる物言いと直接的な暴力で精神的・物理的に相手をボコってしまう様が酷くて愉快で仕方ありません。

 そんな彼女が思いを寄せる竜田君はオタクの兄貴が邪な取材費として差し出した金に目がくらんで百舌谷さんに近づいて、女心がちっとも分からずにぶん殴られるし、彼女に思いを寄せる樺島君は女心の範疇に入る事さえ出来ず百舌谷さんにボコボコに。
 既に「恋愛」に自覚的な百舌谷さんに対し、まだまだお子様で恋愛が分からない男子二人。しかし、百舌谷さんにボコられるうちに、片方は彼女が垣間見せる「女の子」にハートを刺激され悶々とするようになり、もう片方はMっ気に目覚めて悶々とすることに。
 男子二人、全く異なる思春期の目覚めであります。酷い話だ!(褒め言葉)

 そんな思春期にさしかかったばかりの少年少女が織りなす恋物語――というにはあまりにもクレバーでクレイジーで破壊的な物語。逆上の果てに迷走と暴走を始めた青い恋は一体どこに行き着くのでありましょうか。前代未聞の大怪作であります。素晴らしい。