とよ田みのる『FLIP-FLAP』
- 作者: とよ田みのる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/06/23
- メディア: コミック
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至って普通の青年・深町君が片思いの女の子・山田さんに告白した際、交際の条件として提案されたのは「ピンボール」でグランドチャンプのハイスコアを抜くこと。
同様の条件を提示された連中とともに、深町君の「普通」の日々は終わりを告げ、「ピンボール」にチャレンジする日々が幕を開けるのでありました。
『ラブロマ』で真っ直ぐにも程がある恋愛をコメディタッチで描いた著者が今回挑んだのは「ピンボール」に賭ける青春物語。
最初は山田さんへの下心のみでピンボールを始めた深町君ですが、本気でプレイをする山田さんを見ているうちに自分も「本気」でのめりこんでいくことに。最初はなあなあな人生を予感していた彼が、「本気で楽しむこと」の素晴らしさを知って変わっていく様を実に熱く、そして清々しく描いております。
実益になるようなことは無い「娯楽」であるピンボールですが、その奥深い世界に魅了されてとにかく一生懸命に打ち込む様は眩しいくらい。
とかく欲得ずくでものを考えがちになってしまっている我々からすると、損得勘定も無く一つのことに全身全霊で打ち込む姿、また、そのことを肯定できる若さはひたすらに眩しく映ります。まさに光り輝く青春そのもの。
ピンボールという今となっては多くの人にとって馴染みのない娯楽に打ち込む姿を描いてはいても、そこには我々が焦がれて止まない一つの青春の理想像が描かれております。
その青春を彩る恋愛のお相手である山田さん。彼女の存在がまた実に素敵です。ふわふわと捉え所のない感じ、ちょっと他人とずれたテンポ、しかし一度ピンボールに触れると人が変わったようにのめり込む熱さ、ちょっぴり変ですが、それら全てひっくるめて大変に魅力的。
そんな魅力的な彼女を追いかけていた深町君が、「ピンボール」という一つの小宇宙を共有することによって山田さんを理解し、近づき、やがて彼女と釣り合うような魅力的な男に成長していく様は、熱く心震える演出に充ち満ちております。ピンボールに打ち込む二人の表情が本当に素晴らしい。彼等が揺らすのはピンボール台だけではありません。彼等の人生と読者のハートに激しく衝撃を与えて来るのです。
「ピンボール」という変化球の題材で攻めてきているように見せつつ、しかしその本質は直球ど真ん中の青春ストーリー。青春の光の部分を賛美した本作、素晴らしく明るく爽やかな読後感を与えてくれます。