渡辺航『弱虫ペダル』1巻

弱虫ペダル 1 (少年チャンピオン・コミックス)

弱虫ペダル 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 オタク少年と自転車ロードレース、全く接点がないように思える二つの要素。本作はそんな二つ要素が設定の妙でぴったりと結びついて語られるちょっと新感覚なスポーツものであります。

 お金がかからないから、という理由だけでママチャリで往復90キロもある秋葉原への道のりをこぎきってしまう主人公・小野田坂道。
 急な坂道をママチャリで登り切ってしまうその小野田の脚力を目にした自転車部のルーキー・今泉は彼に勝負を挑む。
 入ろうとしていたアニ研が部員不足で休止中のため、人数確保のために勝負を受ける小野田だが――

 アニメや漫画が好きで、節約の道具として自転車を使い続けてはいたものの、スポーツや趣味としては全く捉えていなかった小野田ですが、幼い頃からのアキバ通いで鍛えられた自転車力というか脚力は大変なものに。全く自覚はないけれど凄いポテンシャルを秘めております。
 一方、今泉は才能あるエースキャラでありますが、かつてライバルに喫した敗北を胸に抱えて練習を重ねる努力家。

 自覚の無い天才と、その道を志す努力家のライバルとの出会い。これによって主人公の才能が開花していく、というダイヤの原石研磨ストーリーはスポーツものでは王道の展開でありますが、アキバ通いで鍛えられた脚力と、主人公小野田のオタク性、乗っているのがママチャリ、等の設定のお陰で目先の変わったユニークなスタートダッシュを切った物語に。

 節約とオタク生活の充実のための道具として自転車に乗り、運動部に対してコンプレックスを持っていた小野田が、勝負の中で自転車で走ることの楽しさに目覚め、同時に自分の力に気づいた時の鮮やかな感動の描写。これも王道の展開ではありますが、物語の転換点として実に爽やかに機能しております。

 オタク&自転車というミスマッチ感で物語の導入を非常に上手く果たした本作は、その芯の部分は大変にストロングスタイルで骨太なスポーツもの。その王道故の物語は力強さに溢れております。
 オタク少年が主人公というスタートダッシュの燃料となった設定がこの後にどう活きてくるかがこの作品の肝となるかもしれません。