「Fellows!」創刊号

Fellows! 2008-OCTOBER volume 1 (BEAM COMIX)

Fellows! 2008-OCTOBER volume 1 (BEAM COMIX)

 新雑誌の創刊号を手に取る時はいつもわくわくしますが、この「Fellows!」はまた一層それが強いのであります。新しい才能がどんな驚きと感動を与えてくれるか、そんな楽しみがいっぱい。今一番注目すべき雑誌ではありますまいか。
 いやまあ、書籍扱い商品ではありますが定期刊行物とうことで雑誌、という括りで扱わせていただきます。

森薫乙嫁語り

 19世紀の中央アジアを舞台に遊牧民のところから嫁いできたアミル20歳と定住の民カルルク12歳、年の差夫婦の物語。文化と年の違う二人の生活を描いていくのかな、と思いきや、背後に何やら事件の匂いも。違和感なく混じって暮らしている研究者風の男性の存在も気になるところ。
 しかし、なんともまあ細かく描き込まれた目にも綾な衣装であります。物語の舞台設定も目新しくてすごく面白いのですが、コレ資料集めとか大変だっただろうなあ。

佐々木一浩「電人ボルタ」

 不思議な「右腕」持つ少年・ボルタと一緒に暮らす女性・素恵。素恵の誕生日を祝おうとするボルタだが――
 普通の生活をしようとする二人の中で異彩を放つ異形の右腕。ボルタにとっての自慢であり、コンプレックスでもある右腕の謎を残しつつ、そんなボルタを包み込む素恵の優しさを描いております。

明仁「彼女と彼」

 綺麗で男のあしらいを心得ているげなお姉さんと、生真面目で正義感の強い男・直木知親君の出会い。最初は気にも留めていなかったのが、ある事件を経て心ときめかせてしまうお姉さん。しかし――
 おお、知親君がえらいかっこいい。融通の利かない真面目さ一本を貫き通す姿が素敵であります。これからお姉さんのアタック開始、となるのか?!

鈴木健也「蝋燭姫」

 修道院送りになった姫様とそのお付きの侍女と、彼女たちを迎える修道女たち。姫様のカリスマに酔う行動派の侍女フルゥと、無邪気な修道女達の中で一人不遜な態度を採るヤージェンカの出会いなど波乱含みの始まり。異なる価値観を有する女達が集まった中、影があるらしい王女様の存在がどう影響していくか。

笠井スイ「花の森の魔女さん」(読切り)

 魔女だと噂があるお祖母さんと小さな兄妹の出会いのお話。おばあちゃんの優しさとかわいらしさ、ちょっとづつほぐれていく兄妹の反応に大変に心が温かくなりました。兄妹の反応に安心するおばあちゃんの表情の変化が大変に良いですなあ。

宮田紘次「ラストダンスは踊り場で」(読切り)

 文化祭で学校そのものの飾り付けを提案した女の子。手伝う人間が減っていって、最終的に4人で行う文化祭の準備。
 イベント前の高揚と、それぞれ事情や距離感のある4人がイベントを通じて一体感を増していく様が丁寧に瑞々しい筆致で描かれていて大変に心地よいです。
 四者四様のキャラ付けと、それぞれ違った理由で参加しながら、最後は全員が「楽しかったね」にまとまる様が実に青春しておりました。

しおやてるこ「たまりば」

 小学生の弟と河原で遊んでいるという男と会うことになった高校生のお姉ちゃん。友達と一緒に、「ジョニーデップ似」であるというその彼と実際会ってみたら……
 昼間から河原で小学生と遊び「おっさん」と呼ばれている、という怪しさ爆発の男ですが、実物は何ともまあ愛嬌のある人で。色々な方向に転がりそうな始まり方ですが、どうなるのかしら。お姉ちゃんが男に対して結構好印象っぽいのがどうなっていくか。
 ぷにっとした可愛らしい絵柄がすてき。

佐野絵里子「為朝二十八騎」

 九州にいた頃の若き源為朝を描くお話。その巨躯と武勇故に愛馬を乗り潰し続けてきた為朝が、また戦いの中で愛馬を失ってしまい、哀しみに暮れる。「英雄」為朝を、愛馬の死に涙を流す優しい――武人としては優しすぎる人間として描いております。
 タイトルから保元の乱くらいまでは描くと思われるので、この優しい為朝が今後どう描かれていくのか非常に興味深いです。

八十八良「早春賦」

 田舎から東京に出て行く兄と、その兄と付き合っていた少女と、その少女と同級生の弟と。兄の門出の日に少女と弟の密やかでで悲しい恋のエピソード。兄から色々教わった事で大人を装う少女と、痛みを共有することで大人になることを誓う弟。ああ、こういう作品を書ける人だったんだなあ、と。成年コミックの時はあんまりそういう印象がなかったもので。次回は弟君からのエピソードになるということでどう展開するか楽しみ。

藪内貴広「In Wonderland」

 不思議の国で戯れる少女とうさぎ。奇妙な登場人物や光を感じさせる独特の筆が絵本のような作品の雰囲気を作り上げております。どういう話になるのだろう。

雁須磨子「まちがいはありません」(読切り)

 妻との不在中に義姉と同居することになった夫。人見知りの彼ともっと人見知りで無愛想でぶっきらぼうな義姉の共同生活。
 息が詰まるような、淫靡なような、痛々しいような、残酷なような。不思議な感触。他人との距離って難しいなあ。

まさひこ「グレタ島日記 電光オルゴール創作人フウ」

 架空の島を舞台に「電光術」という架空の技術と人との関わりを描く物語。世界と技術の概要を大づかみに提示するといった感じの第1回。世界観が結構好きです。

福島久美子「水晶の森」

 不思議な卵から次々生まれてくるモノたち。恐竜、虫、魚……と色々出てきて、最終的に出たものは――。奇妙で不思議でかわいいオチと発送に感心してしまいました。

久慈光彦「ラピッドファイア」(読切り)

 銃の訓練を受ける少女と、彼女が訓練を受ける理由。いろいろあって、彼女が選択したのが「銃」というものであるのは考えさせられるものがありますが、それを考えさせること自体がこの作品の目的ではあるまいか、と。シャープな線と艶っぽい女の子が魅力的。

百名哲「敬遠球をフルスイング」(読切り)

 野球部の補欠1年ミーツ演劇部の美人部長。野球少年達は舞台を目指す! というお話。ギャグかと思いきや結構ハードに体育会系の構造を描いてみたり、淡く爽やかな恋ありとすごく山盛りの青春ものでありました。そしてオチも可笑しくて。ああ、大好きです。これ。
 3号目から百名先生の連載開始ということで大期待。

小暮さきこ「Milk and Water」(読切り)

 父子家庭のお父さんが娘に語った真実。ユニークな語り口ながら大変ハードな事を伝えつつ、それで強まる親子の絆。強「おとうさんをやってる」「むすめをやんなきゃ」というセリフが、でも最後には一緒になって気持ちが通う様がとても心に迫りました。

丸山薫「ストレニュアス・ライフ」

 書いては破棄し、を繰り返す作家に訪れた不思議な一コマ。色々異なる世界をパッと見せて、消して。陰影のコントラストが強い絵柄と見開きの効果的な使い方が印象的。漫画のショートショートとして結構インパクトありました。


 個人的には宮田紘次「ラストダンスは踊り場で」が一番ヒット。
 鈴木健也「蝋燭姫」、百名哲「敬遠球をフルスイング」のビーム出身組は期待通り、八十八良「早春賦」、小暮さきこ「Milk and Water」が新鮮ですごく良かったなあ、と。

 次号以降も次々と新連載が始まっていく、ということで本当にわくわくが止まりません。やー、次号も楽しみで仕方がありません。