樋口彰彦『クルリのヒトトセ』

クルリのヒトトセ (角川コミックス・エース 212-1)

クルリのヒトトセ (角川コミックス・エース 212-1)

 「ピクト」というロボットの研究者を父親に持つ少女・クルリ。彼女が預けられた田舎で出会ったのは父親が造った最新型のピクト・キューちゃん。父親の師匠でもある「ばあちゃん」やしっかり者のピクト・オラクルらとともに、クルリとキューちゃんが共に過ごす一年をハートフルに描きます。

 最新型だけれどもまだロールアウトしたばっかりで、子供のように無垢な言動をとるキューちゃんが大変に可愛らしくて和みます。一人称は「おら」で、訛っているのがまた。
 人間の心を学んでいく少女型ロボット、というキャラクターの系譜に連なるキューちゃんですが、しかしまあ、訛ったロボ子って初めて見ました。実に愛らしい。食いしん坊なのもまたたまらなく愛らしい。

 クルリとキューちゃん、出会ってから一緒に生活していくうちに人と人の絆、思いやり、そういった大切なことを学んでいく二人。「ロボット」ではなく「ピクト」という名称が与えられているのは何故か、その訳がばあちゃんの語られた時、ああ、なるほどと思いました。
 そして、いつしかばあちゃんやオラクル、そしてお父さん、絆を深めていって大切な「家族」となって様は、じんと心に迫るものがあります。

 人と共に在るロボット、というSF設定でありながら、ノスタルジックな田舎を舞台にした物語。でもこれが実に巧く噛み合っていて読み終わった後は大変に優しい気持ちになれる物語であります。とてもおすすめの一作。