サチコ『母は僕らを葬ります』1巻

 殺人を犯した(?)少女が逃亡先の廃屋で出会ったのは、気弱な中学生の「父親」、小学生の「姉」、お姫さまに憧れる「弟」、四つんばいの「犬」少女と奇妙な家族ごっこをする若者達。その中に「お母さん」として参加することになった少女だが――

 顔を腫らした傷だらけの少女が物騒状況からの逃走劇、その先に待っている怪しさ不可解さが山盛りの家族ごっこ、とインパクトのある導入で度肝を抜かれます。
 少女が頭をかち割った相手は誰なのか、そしてなぜそんなことをしたのか。家族ごっこをしている者達は一体何のためにそんなことをしているのか、そもそもこの人達はどういった人たちなのか。数々の謎が一遍に押し寄せる中、その謎に押し流されるように始まってしまった家族ごっこ
  誰も彼も病的で重い事情を抱えながら、それを隠して本当の自分とは別に役割を演じるこの疑似家族は、ひどく歪で不気味でありながら、時にとても繊細な心の寄り添う様を見せます。
 しかし、そうでありながら「お母さん」が家族の秘密を分かち合って理解していく話、とは括れない何だか黒々としたものを物語の底に抱えています。その暗いものが時々鬼火のようにゆらりと燃えるのが大変に不安であります。

 疑似家族で問題を解決し各人が幸せを掴む――という方向に一応動いてるようですが、あまりにも謎が多く、歪な人間関係と結構エグい描写に不安の影がつきまといます。タイトルが意味深なのも大変に気になります。とにかく、いろいろな意味で気になる物語で、ざらりと心にひっかかるものがあります。