釣巻和『くおんの森』1巻

くおんの森 (1) (リュウコミックス)

くおんの森 (1) (リュウコミックス)

 木が集まれば「森」にになりますが、本が集まればどうなるか。この作品の題名の「森」の正式な表記は本が3つ重なった造字でありますが、その字の通りに、大量の本が集う不思議な空間「くおんの森」に出入りすることになった書痴の少年の物語。

 本好きの多い町、あらゆる本が集まるくおんの森、一読した本は忘れない少年、文字喰って生きる紙魚――と設定にとにかく本が絡む本作。しかし、この物語の中での「本」の扱い方は、ビブリオマニア的なそれだったり、個別の作品をフィーチャーしたりするものではなく、人間の経験・知識や想いが紙と文字によって形を与えられた物、といった感があります。
 物や作品としての本そのものよりも、本に関わった人の想い、本に対する人の想いをキーに物語は展開します。

 そんな本の集合空間である「くおんの森」の森人(=守人)である少女・モリ。ミステリアスで、悪戯っぽく可愛らしい彼女と、主人公・魚住遊紙の出会いで始まる、本の世界の幻想と現実が入り乱れた不思議でユニークで美しい世界。
 図書館や古書店といった「本が大量にある空間」の、静けさとときめきに満ちた独特の雰囲気、そして幻想と現実が溶け合った奇妙で美しい世界。これらが細密でしなやかな画で表現されていて、素晴らしさと言ったらありません。まさに息を呑む美しさであります、これは。
 カラー原稿がモノクロ収録になってしまっているのは仕方ないとはいえ、実に残念。

 とにかく魅力的な世界を魅力的な画で描き出している作品。是非この世界は一度手にとって確かめて欲しい、と強く強くお勧めしたい一作であります。