結城浩/日坂水柯『数学ガール』上巻

 日坂水柯先生描くキャラクターの、メガネのレンズ越しの視線はたまらない色気を湛えていると思うのです。
 というわけで。

 数学を愛するメガネの少女・ミルカさん、そのミルカさんに憧れるこれまた数学好きの主人公「僕」、その僕に恋心を抱き、数学を教わる後輩のテトラちゃん。この3人をめぐる数学と恋の物語。

 山ほどの論理展開と数字・記号が出てきますが、視点が僕とテトラちゃんに設定され、二人の間の問答、或いはミルカさんからの解説という形でそれらの数学的な題材は語られるため、難しいことは全く無し。寧ろ専門的な話題も、数学が苦手な自分のような人間にもするりと頭に入るように描かれています。(ちょっと文字は多めですが)

 そして、二人とは異なり、常に出題者・解説者であり、また視点が移動せず内心が語られることのないミステリアスなミルカさん。その見えない彼女の気持ちを中心に回る数学の論理と二人の心。
 論理的なものの最たる数学と、非論理の最たる恋愛。相反する二つの事柄を中心に据えながらそれが混じり合っていく様が静かに、しかしときめきを以て描かれております。
 数学論理の本質を語っている祭に、すっと人間の本質に近づく瞬間が美しい、と感じました。

 コミカライズが難しそうな題材にも関わらず、私のような原作未読者&数学苦手な人間をも話に引き込む作りに感心。
 数学が苦手な方も、その辺は心配が全く要りませんので是非ご一読を。