大塚英志/森美夏『八雲百怪』1巻

八雲百怪 (1) (単行本コミックス)

八雲百怪 (1) (単行本コミックス)

北神伝綺』『木島日記』に続く民俗学シリーズ第三弾の主人公は小泉八雲。助手役に会津八一を配し、明治の世に消えゆこうとする古い妖怪達との邂逅を描きます。
 蘇民将来伝説にまつわる風習と人面牛身のくだんを絡めて描く「夏越祓」
 八雲が見た故郷の妖精、一つ目一本足の古き山の神にまつわる殺人事件、そして橋姫らの「名前」に関わる物語「妖精名彙」
 以上の2編を収録。

 ああ、やっぱりこのシリーズはたまりません。物語・伝承が持つ要素や来歴を分解して他の物語に繋げていく方法の巧みさと大胆さに感動を覚えます。

 八雲先生と妖怪との出逢いの場に現れるのは、両目を隠した謎めいた男・甲賀三郎(時代的に探偵小説作家の方ではなくて、諏訪の蛇神伝説の名前を持った何者か、なのでしょう)。まるで人形のような不思議な存在のキクリを連れ、新しい世の中のために古き信仰に連なる者達を消し去ろうとする明治政府の命で動く彼の妖怪達の始末に立ち会う八雲が何を見、そして感じるか。

 『木島日記』や『北神伝奇』ほどのはっちゃけた大ハッタリはないものの、八雲先生の柔らかなキャラクターと「怪」なるものへの愛惜が、これまでのシリーズの調子とはちょっと異なる哀しげな味わいを生み出しております。
 とはいえ、それ以上にこのテの民俗学的な要素を少しでも囓った人間の興味をビンビン刺激する要素が至る所に埋め込まれた一筋縄では行かない物語であるのは変わらないところ。


『八雲百怪』第1話「夏越祓」49P 幽世に足を踏み入れた八雲