伊藤静『福助』1巻

 祖母を喪い天涯孤独の身となった千晶が遺品整理で見つけた「福助」と書かれた木箱。その箱を開けると小さな男の子が現れた。福を他者に与え、代わりに年を取っていく福助と千晶のささやかで温かい日々が過ぎて行くが、やがてその福助の力を狙う暗い影が射し始める――


 親族を皆亡くし、恋人からも捨てられて独りぼっちになってしまった千晶。お腹に宿った子供とともに「もう一度家族が欲しい」と望む彼女と、純真な福助。不思議な力で福をもたらす福助と不幸の中で強く生きようとする千晶の、ちょっと奇妙な日常が優しく描かれております。
 福助がはしゃいで千晶の仕事を台無しにしてしまったときに、謝ろうとその力を使って庭の植物を生長させる描写や、イヤミな元恋人の母親を追い返した際に真夏の雪を降らせる描写など、何とも幻想的であり、福助の想いが伝わってきて素晴らしいものがあります。

 しかし、力を使う毎に少しづつ歳をとっていく福助。そしてその福助の力を探る人物の影。小さな幸せの日々に兆す不安の影が、ある時を境に一気に二人の日常を塗りつぶし、物語は急転します。1巻の物語の中でこのメリハリの効いた構成は見事。

 千晶のために、そして短いこの世での生活の中で出逢った人のために自分を犠牲にして力を使う福助。無私の愛情がもたらすのは何なのか。「幸せ」を他人に与えるということはどういうことなのか。そもそも幸せとはどういうことなのかを考えさせられます。
 非常にオススメの一作。

福助(1) (モーニング KC)

福助(1) (モーニング KC)