星野之宣『宗像教授異考録』6巻

 「竹取物語」と「浦島伝説」の類似から古代の宇宙観を読み解き、二つは元々同じ物語だったと論じる「再会」
 船の遭難に居合わせた宗像教授が古代の宇宙観と神話の関係性を生き残った人々に語る「テキスト 天空の神話」
 仮面土偶の異様な形状から古代の巫女に与えられた役割と黄泉醜女の本来の姿を論じる「黄泉醜女
 以上の三編を収録。

 球形の殻が大地包むという構造の渾天説では、その殻空には穴が開いており、そこから差し込む向こう側の光が星であり、その殻状の空の向こう側の世界に広がる世界があったと古代の人々は考えた。
 その殻状の空が回転することによりこの世界に昼と夜という時間の概念が生まれるとすれば、殻の外側の世界はその空の運動とは無関係な昼も夜もない、時間を超越した"常世"であり、老いることも死ぬこともない世界だという。
 あっというまに成長するかぐや姫、箱を開けて急に年をとる浦島。竹取物語と浦島伝説に共通する、「この世の時間と異なる時間の流れ」の描写から、この二つの物語は常世と現世を往還する一つの話が二つに分かれたものだ、と論じる宗像教授。

 嘘か真か、宗像教授の論は相変わらず素晴らしく面白いなあ。
 「再会」では、この常世と時間を巡る物語に、『神南火』で主役を務めた女版宗像教授というべき忌部神奈の一族のエピソードが絡まり合って、スケールのでかい話と成っております。

 そして、「天空の神話」。
 古代人の海路を船で辿る企画で、その船に乗り合わせた宗像教授。
 その船を隕石が直撃! 死者多数! 生き残りに古代のロマンを説く宗像教授! とこちらもまた、ある意味宗像教授らしい凄い話。今までも度々思ってきましたが、宗像教授達にとっては古代のロマンより人の命は軽いのでありました。
「犠牲者には気の毒だけど、航海に参加した甲斐があったような気がする」などと宣う神奈さんはやはり宗像教授と同類でありましょう。

 「黄泉醜女」では、神や人の顔を直接表現することを畏れて避けた、と説明される仮面土偶の顔の異様な表現について、実は中国の纏足のように顔面を押しつぶして人工的に奇形の顔を作り出していたのではないか、と語る教授。
 イワナガヒメが不死の属性を持つのも、醜いもの恐ろしいものに僻邪の力があり、醜さが死すらも退けると人々が信じた故であり、醜い顔で義務づけられて死者の安寧を司る古代の巫女達の存在があった事を指摘。
 その巫女達が時代の変遷とともに神話の片隅に追いやられ、零落したのが死者の神となったイザナミに仕える黄泉醜女ではないかと語ります。

 うーん、大変に面白い論だなあ。宗像教授のエンターテイメントっぷりは相変わらず素晴らしい。
 「黄泉醜女! そういうのもあるのか」といった感じで奇想溢れるこの第六集も大変にオススメ。

宗像教授異考録 6 (6) (ビッグコミックススペシャル)宗像教授異考録 6 (6) (ビッグコミックススペシャル)
星野 之宣

小学館 2007-08
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