水上悟志『戦国妖狐』2巻

戦国妖狐 2 (BLADE COMICS)

戦国妖狐 2 (BLADE COMICS)

 ひねくれた主人公に前に提示される「ぶれのない生き方」。これに対して主人公どう向き合い、そしてどのように変わっていくか、彼が持てる「力(或いは才能)」をどう活かして行くのか、というのは水上先生の作品の中で繰り返し描かれるテーマの一つ。
 この作品の中でも迅火は「世直し」という大目標を掲げ言動に揺らぎのない妖狐の姉・たまを前に自問自答を繰り返し、人と闇それぞれの多様な生き方を見て、人間に対する考え方と、自分と姉だけだった世界に広がりを持たせていきます。
 この2巻で激しい戦いと別離を経て新たな仲間を得た迅火一行。そして出現した強大な敵を前にして迅火がどう変わっていくか。仲間達が彼にどう影響を与えるか。どんなドラマを見せてくれるか、非常に楽しみであります。

 このようにものすごく真っ直ぐに、そして骨太に主人公の成長譚を描きながらも、要所要所でガクっとすかすファニーなキャラクター達がたまらなく魅力的。このバランス感覚は素晴らしいなあ、巧いなあといつも思うのです。


戦国妖狐』2巻 173P 第12回「出立」より

荻野眞弓『たまのこしかけ』1巻

たまのこしかけ 1 (まんがタイムコミックス)

たまのこしかけ 1 (まんがタイムコミックス)

 腰かけのつもりがいつの間にやら15年、独身OL赤羽たまこさん(35歳)。仕事をしたり、他部署の年下の男の子が気になったり、と彼女のOLライフを綴る4コマ漫画。

 どう見ても20台前半か半ばくらいにしか見えないかわいらしい外見のたまこさん。

 ――こんな35歳がいてたまるかぁ!

 だが、それがいい
 そんな「かわいい35歳」というありえなさと、やっぱり年齢相応だったりもする中身のギャップがネタとして機能しております。ちなみに、同年齢の美人係長は女装キャラと、こちらもはっちゃけた設定。
 いい年こいて、女としてちょっと焦りつつも、一方で女を捨てて日々の生活をエンジョイしているたまこさんが実に愉快でかわいらしいのであります。係長とのいきのあったやりとりも楽しい。

 ちなみにたまこさんはブログも運営中
 しかし――
 「ツァトゥグァ」なんて単語を平然とブログに書く35歳OLがいてたまるかぁ!
 大好きだ!


たまのこしかけ』37Pより。白髪染め……。

大塚英志/森美夏『八雲百怪』1巻

八雲百怪 (1) (単行本コミックス)

八雲百怪 (1) (単行本コミックス)

北神伝綺』『木島日記』に続く民俗学シリーズ第三弾の主人公は小泉八雲。助手役に会津八一を配し、明治の世に消えゆこうとする古い妖怪達との邂逅を描きます。
 蘇民将来伝説にまつわる風習と人面牛身のくだんを絡めて描く「夏越祓」
 八雲が見た故郷の妖精、一つ目一本足の古き山の神にまつわる殺人事件、そして橋姫らの「名前」に関わる物語「妖精名彙」
 以上の2編を収録。

 ああ、やっぱりこのシリーズはたまりません。物語・伝承が持つ要素や来歴を分解して他の物語に繋げていく方法の巧みさと大胆さに感動を覚えます。

 八雲先生と妖怪との出逢いの場に現れるのは、両目を隠した謎めいた男・甲賀三郎(時代的に探偵小説作家の方ではなくて、諏訪の蛇神伝説の名前を持った何者か、なのでしょう)。まるで人形のような不思議な存在のキクリを連れ、新しい世の中のために古き信仰に連なる者達を消し去ろうとする明治政府の命で動く彼の妖怪達の始末に立ち会う八雲が何を見、そして感じるか。

 『木島日記』や『北神伝奇』ほどのはっちゃけた大ハッタリはないものの、八雲先生の柔らかなキャラクターと「怪」なるものへの愛惜が、これまでのシリーズの調子とはちょっと異なる哀しげな味わいを生み出しております。
 とはいえ、それ以上にこのテの民俗学的な要素を少しでも囓った人間の興味をビンビン刺激する要素が至る所に埋め込まれた一筋縄では行かない物語であるのは変わらないところ。


『八雲百怪』第1話「夏越祓」49P 幽世に足を踏み入れた八雲

09年2月購入予定

 なんやかやと忙しくて更新が滞りがちだった1月。2月はもうちぃときちんと更新をしたいなあ、と思いつつも1月以上に忙しくなりそうで一体どうなりますやら。雑誌感想とか全然書けてないですなー。よろしくないですなー。
 というわけで、相変わらず備忘録的意味合いの強い購入予定であります。

 毎月、前半をチェックしていると今月は少ないかなー、と思うのに20日を過ぎると途端に増えて「あ、いつも通りだ」となります。

 さて、個人的な今月一番の注目は『ベントラーベントラー』。「アフタヌーン」連載中の異星人交流コメディ。飄々としつつも実はクセ者ではないかと思われるクタムさんとちょっと間抜けなすみちゃん、このコンビの活躍(?)に注目。

 しかし毎月コンスタントにコミックスだけで3〜50冊増えていくわけで、加えて雑誌、文庫、単行本、その他いろいろ買っているので、部屋のキャパ的にそろそろ限界が近いような気が。床の耐荷重的にも。ボロアパートなもので。さて、どうしたものかしら。

市橋俊介『敗北DNA』

敗北DNA (ビームコミックス)

敗北DNA (ビームコミックス)

 よくぞここまで描いたなあ、というくらいに人生の負け組やダメ人間ばかりが登場する作品。
 どいつもこいつもイラッとくるようなブサイクばかりで、みんなダメさが嵩じてギリギリの人たちになっております。しかしそんな彼等が発揮するダメさ加減・底辺っぷりが逆にいとおしく、時に哀しい共感を覚えるのは私だけでしょうか。みんなダメなのにそれなりに強く生き――てないな。その人生への目の瞑りっぷりがまた。

 いやー、連載7年にしてやっと単行本化。このこと自体がもう奇跡ではないでしょうか。良くもまあ単行本化にゴーサインが出たものだ、という。いや、嬉しいんですが。
 万人にお奨めしやすい作品か、というとそうではないのですが、私は大好きです。


『敗北DNA』53P「天才 柏崎」より

黒咲練導『放課後プレイ』

 年頃のカップルが一つ屋根の下でゲームをやったりぐだぐだとオタ話をしているうちに、いつしか――というお話。

 ああもう、エロっ!
 淫靡というか何というか――籠もったエロスがたまらない作品。

 黒髪ロング、黒ストッキング、目つき悪し(+ときどき眼鏡)、というヒロインの属性が個人的にストライクすぎるというのもありますが、その一挙手一投足の破壊力がとにかく高いのです。
 頬を染めて熱い吐息を漏らす描写、ぬるりとした舌使い、そしてフェティシズムをくすぐりまくる黒ストに包まれたしなやかな足! 直接的な描写は無いだけに、より一層艶めかしさが溢れております。

 ぐだぐだとしたオタ話の中に、互いに悶々としたものを抱えながらのもどかしいやりとりを重ね、ついにキスにまで至る二人。このキスにたどり着く直前のもどかしさとじっとりとした二人の昂ぶりの細微でエロティックな描写には執念すら感じるほど。
 あと、各話のハシラに来るヒロインのイラストが毎回毎回困ってしまうくらいに淫靡な空気を醸し出していて妄想を掻き立てます。そして、ピンナップのカラー画がまたけしからん!(ニヤけながら)

 途中からゲーム4コマの皮をかぶることすらうち捨てて、コマ割がそのシーンを描くためのカメラワークみたいな感じになってしまっておりますが、そういった4コマであること、漫画であること、等々とりあえず置いておいて、独特の陰を帯びた絵柄や上述のような描写にはとにかく惹き付けられる作品。
 万人にはお勧めしませんが、ある種の属性への嗜好を持った人にはクリティカルにヒットすることでしょう。
 同好の士と気になった人は要チェックですよ。ああ、えろい。

 巻数表記はありませんが、新キャラも登場した現在の連載中の分も単行本化するといいなあ。


放課後プレイ』第15話 117P「かるく」より

カヅホ『キルミーベイベー』1巻

キルミーベイベー (1) (まんがタイムKRコミックス)

キルミーベイベー (1) (まんがタイムKRコミックス)

 学校に通う殺し屋の女の子って何じゃそりゃー!
 ――と、恐らく誰もがと最初にツッコミを入れると思いますが、面白かわいらしいのでまあいいか、と。

 そんな感じで、学校に通う殺し屋の女の子・ソーニャと、彼女に絡む普通の女の子・やすな、この同級生二人のやりとりを描く4コマ漫画。

 ソーニャにちょっかいを出してやすながボコボコに、というまるでドツキ漫才のような二人の関係。
 たまに忍者の同級生の娘さんなども出てきたりはしますが、基本的にはソーニャとやすなだけでやりとりは完結しているので、ソーニャの設定が気になる人は「殺し屋」という設定のドツキ漫才だと考えるとしっくりくるかも。オチもやすながソーニャをやりこめる展開などバラエティに富んでいて愉快。

 スペックが高いくせにオバケや虫系が苦手だったりキャラ的に隙があるソーニャと、あっけらかんとアホの子でありつづけるやすなのキャラが噛み合ったやりとりは微笑ましい限り。

 やー、思わず頬が緩む愉快さとかわいさであります。